無国籍のロヒンギャ難民の青年が、ボディビルダーの夢を勝ち取る

子どもの頃、ヌール・カビールさんは夢を叶えるために命を懸けました。映画『ロッキー』に感銘を受けた彼は、世界で初めてロヒンギャとしてボディビルのチャンピオンになったのです

公開日 : 2024-02-20

映画『ロッキー』を見たとき、ヌール・カビールさんは自分の人生が決して同じようにはならないと悟りました。

キャンベラ(オーストラリア)2024年1月30日 ― ヌールさんはバングラデシュ南部の難民キャンプで、友人とこっそりテレビを見られる家を探すために住んでいた自宅を出ました。壁に穴があるのを見つけ、覗き込むとロッキー役のシルヴェスター・スタローンの筋肉質な体格と鉄のような顎が見えました。人間があのような筋肉を持つことができるのかと、ヌールさんはとても信じられませんでした。

この映画は不運に見舞われたクラブ・ファイターが、不利な状況にも負けずボクシングのヘビー級世界チャンピオンになるために奮闘する物語です。

11歳のヌールさんはすぐに彼にあこがれました。

「これまでに見たことない、何か違うものを感じました。彼のようになりたいと思いました。」

彼もまた自分の人生がより良いものであることを想像していました。

「ロヒンギャとして、国籍もなくだれでもないように感じます。難民キャンプでは未来がありませんでした。ロッキーは私に活力を与えてくれたんです。」

ヌールさんは、コックスバザール地区にあるキャンプの一つで生まれ育ちました。ここでは現在、1970年代にミャンマーから逃れ始めた100万人もの無国籍のロヒンギャの人々が暮らしています。ヌールさんの家族の中には、ここで25年も暮らしている人もいます。

彼は小さなシェルターで母親と祖母、2人の兄弟と共に暮らしていました。

「ベッドがなかったので、床で寝ました。狭かったので、とても大変でした。」

冬には暖を取るための上着や毛布が足りず、夏は暑くてたまらなかったそうです。一家は国連の援助機関から支援された水や食料で生き延びていました。教育を受ける機会も制限され、電話やインターネットなどもなかったため、ヌールさんは1日の大半を友人たちとボール遊びをして過ごしたそうです。『ロッキー』を見るまでは、これが彼の知っている唯一の人生でした。

危険な航海

数年後、ヌールさんはバングラデシュからボートが出航するのを知り、母親に別れを告げる間もないまま、迷うことなく旅立ちました。何度かの危険な航海を経て、16歳でオーストラリアにたどり着いたヌールさんは、その後2年間、オーストラリア各地の移民の移送センターやコミュニティセンターで過ごしました。

ロヒンギャ難民はこの1年で4500人近くが同じような危険な船旅に出ており、その大半は女性と子どもです。UNHCRが1月に発表した数字によると、2023年にはこのような船旅に出た8人に1人のロヒンギャの人々が死亡もしくは行方不明となっています。

2016年に一時保護を受け、ヌールさんは叔母が近くに住むブリスベンへと引っ越しました。しかし、新しい生活は決して簡単なものではありませんでした。当時、彼は18歳で読み書きができず、英語を話すこともできませんでした。

「挨拶すらできませんでした。『ロッキー』やシルヴェスター・スタローンが出演する他の映画を何度も見ながら、勉強しました。」

ヌールさんは日雇いの仕事などをしながら地元のジムで働き、フィットネスに情熱を抱くようになりました。そしてついに、パーソナル・トレーナーの資格を取得しました。

勝ち取った夢

しかし、彼の夢はボディビルダーになることでした。ロッキーのように頂点を目指したかった彼は、プロのコーチのサイモン・ストックトンさんの力を借りました。

「私は彼にポーズの取り方や体格の見せ方を教えました」とサイモンさんは言います。サイモンさんはヌールさんの話に深く感動し、無償でコーチになることを申し出ました。

「ヌールさんはオーストラリアに来て、運転免許と仕事を得て、英語を学び、ジムに入会することができました。彼が自分ひとりでそのすべてを学んだのであれば、助けがあれば彼はどんなことができるんだろうと思ったのです。」

2021年にヌールさんは初めて出場した州のボディビル大会で、5位に入賞しました。そして、さらに自分を高めていくことを決意したのです。

ラマダンで断食をしながらもハードなトレーニングを続け、2週間後に2度目のステージに立ちました。大柄で背の高い男性たちに囲まれながら、彼は今度こそ2位か3位になることを願いました。それらの称号が決まった瞬間、彼は背中で指を組みながら心臓がドキドキしていました。そして彼の名前が、優勝者として発表されたのです。

「今までの人生の中で、最高の気分でした。」

ヌールさんは自身を、世界で初めてのロヒンギャのボディビル・チャンピオンだと誇らしげに語ります。

彼の今の夢は国際大会に出場することですが、渡航権を取得するまでは実現が難しい状況です。

「自分の仲間など苦難に直面している人々に、諦めないように活力を与えたいです。」

Lydia Siamando and Charlotta Lomas

原文はこちら(英文)
Stateless Rohingya turns bodybuilding dream into reality


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