スーダンから避難してくる人をきちんと受け入れられるように 今、『周辺国』にも国際社会の支えが必要です

職員インタビュー / 南スーダン

公開日 : 2023-08-10

上野隆之 (うえのたかゆき)
UNHCR南スーダン 上級保護官

大学院卒業後、外務省のJPO※1試験に合格して1997年UNHCRに入職。以降、イラン、コソボ自治州、チェコ、レバノン、モーリタニアなど各国の現場で保護官を務めると共に、ジュネーブ本部やハンガリーでアフリカ、中央ヨーロッパなど、地域全体の援助活動を統括する部門の業務にも従事。2023年1月より現職。

※1: JPO (Junior Professional Officer)…国連加盟国が若者を国際機関に一定期間派遣する制度

スーダンから南スーダンへ――3か月で17万人以上が避難

4月15日にスーダンの首都ハルツームで武力衝突が発生して以来、隣国であるここ南スーダンにも3か月で17万人以上※2がスーダンから避難してきています。(※2:2023年7月16日現在)

現在のところ男女比は半々、やや女性が多い程度で、およそ半数が18歳未満の子どもです。新規到着者のほとんどはハルツームから避難してきており、多くの人が疲れ果て、一刻も早く緊急支援が必要な状況で国境に辿り着いています。

UNHCRは避難してきた人が身体を休め、水や食料などの支援を受けられる「一時滞在センター」を国境沿いに設置して緊急支援を行っていますが、1日平均2000人もの人が避難してくるというハイペースな状況で、UNHCR南スーダンとパートナー団体の職員達は日々その対応に追われています。

スーダンから避難してくる人を受け入れる側の南スーダン自体、現在450万人以上が避難を余儀なくされている状態。国にも支援体制にも全く余裕はありません。

けれど周辺国で受け入れなければ、この親子、家族、ひとりで避難してきた子ども…みんなが行き場を失い、辛い避難の旅を繰り返して彷徨うことになってしまう。そしてスーダンだけでなく地域全体が大変な状況に陥ります。

軍同士の武力衝突に巻き込まれた何の罪もないスーダン市民やスーダンに避難していた人達は言うまでもなくいちばんの被害者です。スーダンから避難してくる人をしっかりと受け入れられるように、今、「周辺国」にも国際社会の支えが必要です。

「避難先」の南スーダンも「3人に1人が避難状態」

今回のスーダン危機で「避難先」となっている南スーダンでも3人に1人が避難を余儀なくされていることをご存じでしょうか。

南スーダンの状況を少し説明します。2011年にスーダンから独立して誕生した国、「南スーダン」。しかし内戦、大規模な洪水、長年の不安定な経済が国民を追い詰め、たびたび人々の国内・周辺国への避難が発生し、その状況は長期化しています。国内の大半の地域で人道支援が必要とされています。

南スーダンでは2023年現在、人口約1100万人のうち220万人以上が国内に、230万人以上が国外に避難しています。南スーダン国民のおよそ3人に1人が避難している状態です。

この4月にスーダンで武力衝突が起こる前は、南スーダンから80万人以上がスーダンに避難していました。そのスーダンに避難していた人達が今回のスーダンの武力衝突で再び命の危険に直面し、不安のまま南スーダンに戻る苦渋の決断をしているのです。

おさまらない地域的戦闘・武力衝突

南スーダンでは2018年の再和平協定締結後、50万人以上が国外から帰国しています。しかし実際には南スーダン各地における地域的な戦闘・武力衝突は全くおさまっていない状況です。

2022年の洪水は「過去数十年で最悪」の被害

南スーダンにおける洪水被害は年々拡大。南スーダンの大部分で発生した昨年の洪水は過去数十年で最悪の被害をもたらし、洪水の被災地域は深刻な食料不安に直面しました。

ジョングレイ州においては4万2000人以上が飢餓の最も深刻な段階「大惨事/飢饉(IPC5)」に陥りました。これは「餓死寸前」より厳しい、食料不安の最も悲惨な状態です。

南スーダン経済に大きな影を落とすスーダン危機

南スーダンの経済と市場はスーダンと深い関係にあり依存しています。例えば南スーダンの北部の食料はスーダンから来ています。スーダン危機の結果、市場の物価は場所によってはこの2か月で60%ほど急激に値上がりするなど、南スーダン経済に大きな影響が出ています。

援助活動のキーワードは「解決」と「エンパワメント」

そのような厳しい状況の南スーダンにおけるUNHCRの難民援助活動のキーワードは「解決」と「エンパワメント」です。今回のスーダン危機で避難してきた人達への緊急対応や洪水被災者への支援など、緊急支援を行いつつ、保護支援に「支援対象者自身をエンパワーする施策(力をつける施策=自立支援など)」を極力取り入れることにより、持続性のある中長期的な「解決」へつなげようとしています。

今、UNHCR南スーダンが注力しているエンパワメント施策のひとつが『希望のポケット(Pockets of Hope)』プロジェクトです。

これは、南スーダン国外で避難生活を送っていた人が帰国して「帰還民」となったのち、その帰還民がうまくコミュニティと融和して定住できるようにサポートする「帰還民支援」のひとつで「地域単位」で実施します。

『希望のポケット』プロジェクトでは、対象地域の「帰還民とコミュニティの双方をエンパワ―する(力をつける)プロジェクト」を実行します。まずはUNHCRの担当者が実際にその地域を訪れ、帰還民とコミュニティのニーズをヒアリング。例えば「小学校が破壊されて無くなってしまったので作ってほしい」というニーズが判明したら、世界銀行やUNDP(国連開発計画)等と連携し小学校の再建を行います。まだ始まったばかりの取り組みですが、既に各国から関心を集めています。

難民との出会いが支援を見直すきっかけに

僕が携わっているUNHCRの保護官という職務の一端をわかりやすくお伝えするために、先日出会ったひとりの子どものことをお話したいと思います。

首都ジュバ近郊のゴロム難民居住地を視察したとき、洋服を着ていない泥まみれの子がいました。話しかけてみるとその子はエチオピア難民で知的障がいのある子でした。親を亡くしおばあさんと兄弟と4人暮らし。痩せて背も小さく10歳だというけれど5歳位にしか見えない。学校も行っていない。

おばあさんを呼んできてもらって「どうしてこの子は洋服を着ていないの?」と尋ねると、「すぐ汚すから着せていない」とのこと。難民居住地は町のような場所です。裸で歩いている子はいません。「やっぱり洋服は必要じゃないでしょうか?」など、おばあさんとしばらく話しました。

難民居住地から帰ってきてもその子がポツンとひとりぼっちで立っていた泥まみれの姿が頭から離れませんでした。

あの姿を見てかわいそうと思う。でもそれだけではいけないのです。僕たちUNHCRの保護官の仕事は「障がいのある難民の子どもへのサポート」がどうなっているか現状確認して、どういうシステムが必要なのか考えて形にしていくこと。

UNHCRの援助活動において多様性に配慮するアプローチは重要で、UNHCRは「障がいのある難民をどう支援するか」というテーマに力を入れ始めています。その子との出会いは、南スーダンにおける障がいのある難民への支援を見直すきっかけとなりました。

このように現場に足を運ぶことはUNHCR職員にとって本当に大切なものです。日々、難民から学ぶことはとても多いです。

高まる支援へのニーズ 一方で深刻な資金不足

南スーダンは5月以降が洪水の季節です。6月時点で、すでに一部の道路が冠水して国境から帰還民・難民を移動できないなど影響が出ていますが、雨季のピークはこれから。非常に心配な状況です。

また南スーダンでは、難民、国内避難民、帰還民などの女性に対する暴力がすさまじいです。反政府軍、武装勢力による暴行だけでなく、様々な場面で女性や子ども達が虐げられ、暴力の犠牲になっています。女性や子どものための支援も非常に重要です。

しかしスーダン危機が起こる前の段階でUNHCR南スーダンには予算の13%しか資金が集まっていませんでした。スーダン危機により支援対象者は急激に増加しており、資金不足は一層深刻です。

1回の支援でもひとりの難民の人生が変わる

スーダン難民家族と上野職員
【南スーダン/ゴロム難民居住地】新たに到着したスーダン難民家族の登録に立ち会う上野職員
話を聴く上野職員
【南スーダン/ゴロム難民居住地】スーダン難民の話を聴く上野職員

最後にお伝えしたいのは、本当に1回の支援でもひとりの難民、ひとつの難民家族の人生が変わるということ。

例えば南スーダンで避難生活を送る難民・国内避難民の母子家庭に対しては、衣料品・食料品・日用品などの物資支援、住居の修復費用、通院時の交通費補助、現金給付支援など、個々のニーズに合わせて様々な支援を行っています。平均費用は母子家庭(1家族)に対し日本円でおよそ1万2000円です。

それで人生が変わると言うと大げさに聞こえるかもしれませんが、支援が無ければ悲惨な状況に置かれてしまいます。支援があるのとないのとでは人生が変わってくるのです。

もしかしたら南スーダンの状況を知っても「なぜこの人たちを助けないといけないのか」という声もあるかもしれません。でも僕は「国際社会が助けなかったら誰が助けるのか」と思うのです。同じ人間として。罪のない市民が戦争に巻き込まれて難民になってしまう。僕たちが「対岸の火事」として無関心になってしまったらどうなってしまうのか、と。

僕は難民の力になりたいと思い現場に戻りました。少しでも難民の力になれている、という手ごたえが僕の原動力です。

日本からのご支援は、ここ南スーダンでも大きな力です。あらためて日本からUNHCRへのご支援に心より感謝申し上げます。

【動画】スーダン危機:南スーダン ゴロム難民居住地の様子

2023年6月15日、上野職員は新たに避難してきたスーダン難民が「どのような支援を必要としているのか」を知るためにゴロム難民居住地を訪ね、居住地内の診療所、学校などを視察すると共に、スーダン難民から直接話を聴きました。


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