From the Field ~難民支援の現場から~ With You No. 48より / UNHCRタイ・メ―ソート事務所 准保護官 磯田唯子

公開日 : 2022-10-05

タイ・メ―ソート事務所
磯田 唯子(いそだ ゆいこ)

磯田職員

コロナ禍において、私たちの多くが自由に移動できないことによるフラストレーションを感じています。何十年にもわたって、そうした鬱屈した思いを抱えてきたのが、タイに身を寄せるミャンマー難民です。約9万1000人のミャンマーの方々が暮らすタイの難民キャンプは、1980年代半ばからあります。人々はキャンプから出ることも、仕事を探すことも許されず、収入を得るにはキャンプでNGOの活動をサポートするボランティアなどに従事する方法がありますが、数も種類も限られています。国境沿いの9つのキャンプのうち、メーソート事務所は3つのキャンプで活動しており、キャンプはジャングルのような場所にあって全体を覆う柵がありません。仕事を求めて外に出る人は後を絶たず、タイの法律では、難民が許可なくキャンプ外に出ることは違法とされ、国外追放になることもあります。過去に森林伐採*で両親が逮捕され、子どもがキャンプの中に置き去りになるケースがありました。パートナー団体とともに子どもを保護し、その後全土で政府に働きかけ、両親はキャンプに戻ることができました。その方は「人生を救ってくれた」というような心からの感謝の気持ちを伝えてくれたのですが、少しの手助けができたと思う反面、私の中では「根本的な解決になっていない」という思いの方が強くありました。明日からも、過酷なキャンプでの暮らしが続いていくのですから。解決への一歩として、難民の雇用へのアクセスや彼らが自由に移動できる環境が必要であり、UNHCRは政府への提言を続けています。

歴史の長いタイの難民キャンプでは、難民の方たち自身が積極的にキャンプの運営に携わってきました。その一例がジェンダーに基づく暴力(Gender-based Violence)からの保護委員会(以下GBV委員会)の活動です。通常こうした委員会は専門のNGOなどの外部組織が担いますが、タイのキャンプでは、その難しい役割を難民が担っています。UNHCRは、難民による被害者のケースマネジメントと国際的な基準との照らし合わせや新しいメンバーの能力開発などでその活動を支えています。活動の日当は彼らの生活の支えになっていますが、メンバーはGBVからの保護に対して強い信念を持っている人がほとんどです。一方、加害者と被害者、ケースを扱う委員会が同じコミュニティの人間であるがゆえの難しさもあります。コミュニティでとても強い力を持っているGBVの加害者が警察に連行されたのですが、被害者が委員会に助けを求めに来た際、多くのメンバーがコミュニティからの反感を恐れ、プレッシャーを感じていました。「一番大切なのは被害者が今何を必要とし、そのために委員会として何ができるかを模索すること」。私たちはそう話し、結局は委員会のメンバーが最後までケースマネジメントにあたりました。この活動がどれほど大切か言葉を尽くして説明し、賛同する方が残り続けて活動を担っています。

コロナ禍においては、支援団体のキャンプへの出入りが制限されたため、難民だけで子どもの保護やGBVからの保護の活動にあたることができるよう、リモートでの能力の強化に注力しました。訓練後、より自信をもって活動できるようになったという報告があったほか、以前難しさを抱えていた部分を克服できたりと前向きな変化がみられています。これまで以上に難民が自分たちのためにアクションを起こせるようになったことは、コロナ禍における収穫です。

ミャンマー難民の状況は報道が少なく、「忘れられた難民」とも言われます。一人でも多くの方に、この記事を通してミャンマー難民の方々のおかれた境遇を知っていただけたらありがたく思います。彼らが決して忘れ去られることのないよう、どうぞミャンマー難民の方々に思いを寄せ続けていただけますよう、心よりお願い申し上げます。

* 森林伐採:タイの重罪のひとつ。煮炊きや飲み水の煮沸に欠かせない木材を求めて、キャンプ外に出た難民が森林伐採で捕まるケースが多発している。

プロフィール

中東ヨルダン・レバノンで約5年人道支援に従事。2021年3月より准保護官として、UNHCRタイ・メ―ソート事務所勤務。

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