破壊と飢餓のヘルマンドに帰還するアフガニスタンの避難家族
経済崩壊と干ばつは、帰還したアフガン避難民数万人がこの冬、厳しい飢餓に直面することを意味します
公開日 : 2022-01-13
2021年夏のアフガニスタンの戦闘の終焉は農夫であるサイード・モハマドさん* に安堵をもたらしました。それは彼と家族が、戦闘が近づくたびに仮住まいを転々と移動した6年間を経て、戦争によって荒廃したヘルマンド州南部の農村マルヤにある自分たちの家に戻れることを意味しました。
マルヤ、ヘルマンド(アフガニスタン)、2022年1月10日 ― 「6年間で初めて、家にいます」とモハマドさん(70歳)は語りました。
しかし、数週間前に彼らが帰還して目にした光景は、荒廃の断片でした。今は見捨てられた軍事基地の近くに位置する家の裏側全体は、瓦礫だらけの抜け殻になっていました。
マルヤの人口の多くは過去10年で避難を強いられました。タリバンと連合軍、そして前政府軍の間での激しい戦闘の場になったからです。紛争の傷跡がない建物はこの町にはほとんどありません。
妻と子ども6人と共に、モハマドさんは家の中のまだ屋根のある一部屋に移り、壁の穴をビニールシートで修繕しました。「ドアを再び取り付けましたが、夜は凍えます」と彼は言います。
ヘルマンドやアフガニスタンの他の地域の元戦闘地にある家に今は帰還した他の国内避難民数万人のように、彼は生活再建よりもさらに大きな困難に直面しています。それは、家族を食べさせることです。
「時々野菜を摂りますが、ほとんどパンとお茶で暮らしています」と彼は言います。「子どもたちは皆、飢えています。」
この打ち砕かれた町の他の人々も、同じ状況を物語っています。家族は十分な食料を手に入れる余裕はなく、モハマドさんのようにこの数か月内に戻って来た人々は、農業を始められる春まで待たなければなりませんし、それも最近の干ばつが緩和されればの話です。これは国中の危機の縮図であり、国連食糧計画(WFP)は、この国で十分な食べられる食料があるのはわずか2%であり、2022年には5歳未満の子どもたちの半数以上が極度の栄養失調に冒される恐れがあると警告しています。
モハマド・アンワー医師(彼自身も最近帰還した国内避難民です)が、自身がマルヤで運営する小さな私設の診療所で毎週診察する栄養失調の子どもは、多くなっています。「理想とされる体重の半分しかない赤ん坊が連れ込まれるのです」と彼は言います。彼はマルヤ地域全体で少なくとも2000人の子どもたちが深刻な栄養失調で死の危機にある、と推定しています。
アフガニスタンの貧しい農村地域において、食料不足は長期的な問題です。外部の支援者からの支援を得ても、なお前政府はこの問題と苦闘していましたが、政府の給与のほとんどを支払っていた外国からの支援の多くがなくなり、金融制裁によって銀行システムは麻痺し、作物や牧草を枯れさせる長期的な干ばつで、状況は今さらに悪化しています。
マルヤや戦争で引き裂かれた他の地域に帰還した多くの国内避難民は今、食料を買い、家々を修繕するためにお金を借り、深刻な借金を抱えています。サイード・モハマドさんは、店主や借金取りに少なくとも5万アフガニ(約500米ドル)を借りている、と言います。「食料、現金が必要です。しかし、今のところ誰も私たちに援助の手を差し伸べてくれません。」
UNHCRヘルマンド事務所のモハマド・サディキ准連絡官は、“激しい戦闘の影響ですべての地域において、栄養失調の件数はより多くなる”ことを示す予兆を語ります。
「もしこのような状況が冬の終わりまで続くなら、ヘルマンドの多くの家族は今までよりさらに貧しくなり、多くの死者が出るでしょう」とサディキ准連絡官は言います。
UNHCRは地元のパートナー団体と連携し、ヘルマンドに帰還した国内避難民約2万2000家族のニーズに対応しています。この冬彼らが暖を取れるための支援に焦点を当て、家々の修繕やコミュニティへの再統合も支援しています。
国連は、2022年のアフガニスタンの人道支援ニーズへの対応として44億米ドルを必要とする計画を1月11日に発表します*。もしその資金が満たされれば、食料の運搬、農業支援、保健サービス、緊急シェルター、水、衛生といった対応が拡大されます。
(* 1月11日、国連とNGOのパートナー団体は2022年のアフガニスタンの人道支援及び難民支援の対応に約50億米ドルを必要とする人道支援計画を発表しました。出典:UNHCR駐日事務所プレスリリース)
悪化する子どもの栄養失調の主な要因は母親たちへの食料が不足していることだ、とアンワー医師は語ります。「タンパク質が不足しているので、子どもたちにきちんと栄養を与えられないのです。」彼は、干ばつの悪化により清潔な水がないことも大きな影響を与え、下痢とそれによる体重減少を引き起こしている、と付け加えました。
虚弱な状態で、栄養失調の子どもたちは、すぐに取り返しのつかない体重減少や死に繋がりうる病気に一層さらされます。また、ほとんどの子どもたちは氷点下の冬の気温から防御する防寒着を持っていません。「栄養失調の子どもたちが肺炎を患うこともあります」とアンワー医師は語ります。
彼は自身の小さな診療所でできる限りのことをしますが、より多くの支援が必要です。そして拡大する飢餓の根本的原因は今も残っています。
干ばつの影響はいたるところで明白です。灌漑用水路は干上がり、塩の地殻が多くの原野を覆っています。アヘン(ヘロインの原材料)を育てるために太陽光発電のポンプを利用して地下水をくみ上げると、水位が低下し、土壌は干上がり、塩分が沈着して、合法的な作物を育てることはさらに困難になっています。
「若者は皆、去っていきます」
ようやく、2022年の始まりが雨をもたらしましたが、その量が多く、ヘルマンドと近隣のカンダハールでは鉄砲水が発生し、家々や野原を洗い流しました。その水の多くは貯水されず、むしろ失われ、干ばつの状況を緩和する効果は一時的なもののようです。
「もし水が永久に止まったら、私たちはイランかパキスタンに行くしかないでしょう」ともう一人の元国内避難民であるファジル・モハマドさんは言います。彼は11月にマルヤへ帰還しました。「もしくは、自分たちの墓を掘るだけです。」
多くの人々がすでに移動しています。それはもはや戦争から逃れるためではなく、気候変動と経済崩壊が交差した影響のためです。「若者は皆、去っていきます」とサディキUNHCR准連絡官は語ります。「彼らは他に何ができるのでしょうか?」
*名前は保護のため変えられています。
Andrew North
原文はこちら(英文)
Displaced Afghan families return to destruction and hunger in Helmand
アフガニスタン 加速する人道危機
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