ヨルダン、ザータリ難民キャンプ:10年間の10の事実
2012年7月28日に開設され、現在も8万人が暮らすザータリ難民キャンプは、長く続くシリア難民危機の象徴的存在となっています
公開日 : 2022-08-04
アンマン(ヨルダン)2022年7月29日 ― 10年前、自国の戦闘から逃れたシリア人450人が暗闇に紛れて砂漠から現れ、隣国ヨルダンの国境を越えました。その日の夜、彼らは新設されたザータリ難民キャンプの最初の住人となったのです。
1年もしないうちに、キャンプの人口は12万人にまで膨れ上がりました。最初の数週間から数か月間、一時的に屋根を提供していたテントは、数千の金属製シェルターに取って代わられました。住民のニーズに合わせて道路や学校、病院が建てられ、起業心に富んだ難民が経営する店や小規模ビジネスが誕生しました。
キャンプの門が最初に開かれてから10年が経ち、人口は約8万人で安定した状態にあります。現在も中東最大、世界最大級の難民キャンプであり、長期に及ぶシリア難民危機の象徴となっています。
ここでは、ザータリについて知っていただきたい10のことをご紹介します。
1.テントは2万5000棟のプレハブ式シェルターに取って代わった
ザータリ・キャンプに最初に到着した難民は、夏の厳しい気候から身を守るためにUNHCRからテントを渡されました。2013年、テントは移動しないキャラバンに変わりました。その寿命は6~8年、つまり、そのほとんどは早急に修理が必要な状態となっています。最近の評価では、70%以上のシェルターの壁、床、天井が標準以下と見なされています。
2.ザータリでは2万人以上の出産が記録されている
これは毎週約40人の赤ちゃんが誕生していることに相当します。キャンプの人口の半分は子どもで、その多くはキャンプ周辺から外に出たことがありません。ヨルダン文部省が運営する学校も含め、医療からコミュニティセンターまで、子どもたちが必要とするすべてのサービスがキャンプ内で提供されています。
3.1800店舗が軒を連ねる活気あふれるマーケット
アッシュ・シャム(シリア人がダマスカスを呼ぶ言葉)とパリの有名な大通り、シャンゼリゼをもじった“シャム・エリゼ”は、キャンプの中心を約3キロメートルに渡って伸び、八百屋から自転車修理店まで、すべて難民によって運営されています。ザータリでの難民の起業精神は、世界で報道されました。ヨルダンの地元ビジネスや近隣の町マフラクの供給元との取引のため、キャンプを行き来する配送トラックは絶えません。
4.8か所の医療機関が無料で医療を提供
さまざまな国際機関や地元団体によって運営されている初期医療の診療所がキャンプ内に点在し、救急車で運ばれてくる急患から通りすがりの難民まで、あらゆる人々の治療に当たっています。毎月約2万5000件の医療相談があり、重い症状の場合は近隣の町や市にあるヨルダンの病院に紹介されています。
5.30以上の団体がキャンプで活動
ザータリ・キャンプを維持するのは並大抵のことではありません。キャンプでは32の国連機関やNGOが活動し、約1200人のスタッフが雇用されています。保護から保健、現金給付、シェルターの維持管理まで、すべてをスムーズに機能させるためには、調整が重要な鍵となります。UNHCRはヨルダン政府と協力し、これら全ての活動を管理しています。
6.水は貴重な資源
ヨルダンは世界第2位の水不足の国として知られており、北東部の乾燥地帯にあるこのキャンプでは水は貴重な資源です。キャンプ内のすべてのシェルターは水道網に繋がれていますが、最近の調査では、ザータリの30%の世帯は、水の供給がすべてのニーズをカバーするのに十分ではない、と回答しています。
7.ザータリ・キャンプは太陽エネルギーで運営されている
難民の家族にグリーンエネルギーと電力を提供するため、ザータリの太陽光発電所が2017年に開設されました。当初は1日12時間近く電気を供給できるように設計されていたため、夜間にマーケットが運営され、日没後に街を安全に歩けるようになるなど、キャンプ内の生活は一変しました。しかしここ数か月、電力需要の急増に伴い、UNHCRはコスト管理のために電力供給を1日9時間に短縮せざるを得なくなっています。
8.就労を許可されている難民は、わずか4%
ヨルダンにいるシリア難民は、農業、建設、サービス、基礎産業等、ヨルダン人ではない人々に開放されているあらゆる分野で働くための労働許可を取得することができます。しかし、現在、ザータリにいる就労年齢の難民のうち、労働を許可されているのはわずか4%です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響がヨルダン経済に及ぶ中、難民とヨルダン人の両方に就労機会がないため、危険性の高い仕事に就いたり、借金をしたりするキャンプ住人が増えています。ザータリの難民家庭の3分の2が借金をしていると報告されています。
9.現金は電子マネーに取って代わられつつある
UNHCRは四半期ごとに、キャンプに住むすべての難民に現金給付を実施し、基本的なニーズを満たすための支援を行っています。しかしここ数か月、現金給付のほとんどは電子マネーに取って代わられています。現在、キャンプ内の難民世帯の95%が電子財布を所持しています。このイノベーションにより、難民はデジタル決済ができるようになり、将来のためにお金を貯めることができるようになりました。
10.難民の大部分は、いつか故郷に帰りたいと願っている
調査データによると、キャンプの住民の大多数は、将来的にシリアに戻ることを今も望んでいます。現在も安全とは言い切れませんが、シリアを見たことがない若い世代の間でも、母国への憧れは強いです。何世代にも渡って受け継がれてきた伝統は、このキャンプでシリアの文化と遺産を守り続ける手助けをしています。その一端は、この10年間、ザータリ・キャンプで培われたコミュニティの強い絆のおかげでもあります。
Lilly Carlisle
原文はこちら(英文)
Jordan’s Za’atari refugee camp: 10 facts at 10 years
その一歩はいつか、シリア再建への一歩に。
※当協会は認定NPO法人ですので、ご寄付は寄付金控除(税制上の優遇措置)の対象となります。