「難⺠は社会問題じゃない、ただの⼈だった」 銭湯での交流で生まれた気づき
RUN FOR Tomorrowキャンペーンの一環で世界難民の日に「UNHCRブルーの湯」として参加いただいた「小杉湯」のインターンと難民の学生たちが交流しました。その交流について、小杉湯インターン石田美月さんが小杉湯のお客様宛に書いたお手紙をご紹介します。
公開日 : 2021-07-27
⼩杉湯のお客様へ
こんにちは、⼩杉湯番頭兼インターンの⽯⽥美⽉です。
この前、国連UNHCR協会と⼩杉湯とのコラボイベントで、「難⺠」と呼ばれている、わんわん君とベンちゃんの⼆⼈に会いました。どちらもミャンマー出⾝だけど、わんわん君は難⺠申請を経て、ベンちゃんは第三国定住のプログラムを経て、⽇本で暮らしている⼤学⽣です。第三国定住プログラムとは、簡単に⾔うと、既に難⺠キャンプなどで⽣活している難民を別の国が受け入れる制度のことを指します。⼩杉湯の番頭アルバイト四⼈とアルバイトの友達の⼀⼈と、わんわん君とベンちゃんの⼆⼈で、沢⼭お話する機会を頂きました。
私は⼩杉湯で番頭をする傍ら、⼤学のゼミでジャーナリズムと⽂学を両⽅勉強しています。ホームレス、オリンピック、フェミニズムなど沢⼭の社会問題や難しいテーマを扱って、⼩説やルポルタージュを書いてきました。結構ハードな問題を扱うことも多くて、そのたびにいろいろ気を付けたり、考えて、現実の難しさを突き付けられました。だから最初、⼩杉湯で難⺠の⼈たちとのイベントをやりますよと聞いた時、ちょっと気が重かったんです。難⺠問題という難しい社会問題に対して、⾟いし苦しいし、どこか縁遠い問題のように受け⽌めてしまう⾃分がいたからです。縁遠くて重い問題に向き合わなければいけないな、事情はきっと⼤変だろうからどうやって接したらいいのかな、イベント上⼿にできるのかなと、そういうことばかり考えて集合時間ギリギリまで私はベッドの中にいました。
でも、わんわん君とベンちゃんが⼩杉湯に⼊ってきて、あいさつをして、三代⽬の佑介さんとか他のアルバイトの⼦たちが興味深々に質問したんです。「転校⽣が来た︕どんな⼦だろう︖」っていう感じで。わんわん君もベンちゃんも、転校⽣らしく慣れた感じで快活に答えていました。ミャンマーでのこととか、⽇本での今の⽣活とか、今⼤学で勉強していることとか、趣味とか話してくれました。わんわん君はテニスが得意で四か国語も喋れてコンビニの副店⻑で、ベンちゃんは釣りが趣味で、釣り竿で岸まで持ってきたあと⼿づかみででっかい⿂を捉えるそうです。みんなで最後、ブルーの⾵呂で⾜湯をした時も、⾜がみんなで真っ⾚っかになって、⾯⽩かったです。あたりまえだけど、⼈間はみな同じように普通の⼈間なんだなと思いました。
でも彼らが私たちと違ったのは、⺠族的・政治的な理由で国を追われ、⽇本という外国に住まざるをえなくなったということでした。⽇本⼈は⽇本語しか基本的に話せないので、⽇本語を⼀から勉強していました。わんわん君は中学⼊る前から家で、ベンちゃんは17歳の時から夜間の中学校に通いながら勉強していたのだといいます。⽇本で普通に⽣活をし、普通の⼈のように夢を持って⽣きるためにです。⼆⼈いわく、難⺠の⽅の中でもあまり⾃分の事情、難⺠のバッググラウンドを話したくないという⼈がかなり多いといいます。難⺠の申請のこととか、宗教のことを考えてしまうとやっぱりセンシティブな問題だからです。でもこれは難⺠だけではなく、誰だって⾃分の事情を⾚の他⼈に明かしたくない時があると思います。
だから難⺠じゃなくて、ただの⼈なんだなと思いました。難⺠問題は解決しなければいけない社会問題ですが、難⺠は社会問題じゃない、ただの⼈だったんです。ただの⼈として接したほうが彼らも嬉しいだろうし、私も気が楽です。銭湯は、⼩杉湯は肩書きの要らない空間だと誰かが⾔いました。たとえ、学校で成績が良くなくても、仕事がうまくいかなくても、それこそ⾃分が難⺠の背景を持っていたとしても⾔う必要がないのです。私は⼩説の下⼿さ、⽂章の拙さに落ち込むこともあるのですが、それを無理に⾔わずとも肯定してくれるのが銭湯のいいところです。
相⼿がどんな素性であれご近所づきあいが出来る。銭湯ではなく、もっとシリアスな場ならあの⼆⼈と、ここまで仲良くなれていなかったのかもしれません。
だから私がこれから難⺠問題に対して出来ることは、誰でも受け⼊れるような環境を整えていくことなのかなと思います。掃除して綺麗な環境を整え、誰にでも挨拶する。⼈と⼈との違いを社会問題だ、とかセンシティブに受け⽌め過ぎず、湯船のような広い⼼で⼈としてフラットに接する、そんな関係が沢⼭できたらいいなと思います。
⼩杉湯番頭 ⽯⽥美⽉ 銭湯