From the Field ~難民支援の現場から~ With You No. 46より / UNHCRレバノン・ベイルート事務所 准第三国定住担当官 齋藤千尋

公開日 : 2021-10-07

UNHCRレバノン・ベイルート事務所 准第三国定住担当官
齋藤 千尋(さいとう ちひろ)

齋藤千尋UNHCR職員写真
勤務するベイルート事務所の前で

第三国定住担当官としての私のレバノンでの任務は4年目に入りました。着任したばかりの頃の首都ベイルートはどこかヨーロッパに似た雰囲気があり、何不自由ない暮らしをしていましたが、今は停電が続き一日数時間しか電気が使えません。このような状況下で、レバノンの方、難民の方の多くが貧困ライン以下の暮らしを強いられています。

経済危機が続いていた同国では、短期間に物価が跳ね上がり、市民の生活は大打撃を受けてきました。そこに新型コロナの流行が始まり、2020年3月には全国でロックダウンを実施。人々の生活はさらに追いつめられていきました。そして、あのベイルート港の爆発事故が起きたのです。責任の所在は明らかにされず、被害を被った地域、生活の糧を失った方々はいまだに苦しい思いをしています。多くの人が海外に活路を見出し国を去りました。でも難民の方々は、国に戻ることも、どこかへ行くこともできません。

私が担当する第三国定住プログラムでも、さまざまな調整が必要になりました。コロナの影響で受け入れ国の状況が刻々と変化する中、多くの家族の第三国への定住が延期され、その方たちの保護や現金の給付支援に加え、面接をオンラインで行えるよう環境を整えることも急務でした。第三国定住は、人道の観点から何らかの事情で庇護を求めた国で生きていくことができない人を対象としています。たとえば、ジェンダーに基づく暴力の被害者で今もリスクにさらされている、命をつなぐための必要な医療が受けられないなどの場合です。面接に来る方たちは、貧困の中でさまざまなリスクにさらされ、第三国での定住を希望しています。面接を重ね、皆どれほど苦しい経験をしてきたかということはわかっています。それでも、受け入れ数が限られているため、私たちはもっとも厳しい状況にある人を選ばなければなりません。誰かを選び、誰かを選ばない、ということは、とても難しいことです。バーンアウトのような症状になることもあります。それでも皆、なんとか息抜きを見つけバランスを取りながら任務にあたっています。

時々、面接で出会ったあるシリア人の男性のことを思い出します。紛争下で身に危険が迫りレバノンに逃れてきた彼は、避難先で性的マイノリティであることを理由に家族にも命を狙われていました。彼は、面接の際に泣き崩れ、ふとこう言葉を漏らしました。「国連はお墓を建ててくれるのですか?」。死ぬしかない。そう思うほどに彼が追い詰められていることがわかりました。「あなたは服を作る仕事をしていると言ったけれど、どんな洋服を作るのが好きなの?」。私は質問を変えて、彼の職業について尋ねました。すると彼は、「女性のドレスを作るのが好きだ」と答えました。「どこかの国に定住することになったら私にドレスを作ってね」と言うと、彼は本当にうれしそうな顔をしました。数分前とは別人のようなその表情を、今も覚えています。未来を思い描くことは希望そのものであり、第三国定住が難民の方たちにとって、もう一度人生を立て直すための重要な選択肢であることを痛感した瞬間でした。

難民の方たちのその後の人生を描く手助けをする、第三国定住担当官という任務の重要性を日々感じています。難民の方と言葉を交わし、教えてもらうことが本当にたくさんあります。避難を強いられている人の数を目にすると、その膨大さに圧倒されることもあります。しかしその陰には、一人ひとりの人生があります。そういった、私が知りえない過酷な経験をしてきた人との貴重な出会いを大切にしながら、日々第三国定住の任務にあたっています。

プロフィール

2015年、UNHCRセルビア事務所に着任。ヨーロッパ危機の際にバルカン半島を北上し同地に逃れてきた人々の援助活動にあたる。2018年より准第三国定住担当官としてUNHCRレバノン・ベイルート事務所勤務。

※第三国定住とは

難民が最初に庇護を求めた国から受け入れに同意した第三国に移動し定住すること。恒久的な解決策の一つで、最初に難民を庇護した国の負担を軽減し、世界の国々で責任を共有することにもつながる。

数字で見るレバノンの難民情勢

レバノン地図

90万人

レバノンは、世界で9番目に多い90万人を難民として受け入れています。

8人中1人

レバノンに住む人の8人に1人は難民です。同国は、人口1人あたりに対し世界で最も多くの難民を受け入れています。

4600人

2020年、レバノンから第三国定住プログラムで4600人が出国。この数は世界最多でしたが、同国の難民の数と比較すると、定住枠がいかに限られているかがわかります。

出典:Global Trends 2020
UNHCR Resettlement

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