From the Field ~難民支援の現場から~ With You No. 45より / UNHCRナイジェリア 准保護官 進藤ブラーテン美生
公開日 : 2021-06-09
UNHCRナイジェリア 准保護官
進藤ブラーテン美生(しんどう ぶらーてん みお)
私は高校生の頃から、ネパールやトルコなどへ単身で赴き、支援活動を行って来ました。やりがいを感じる一方、個人での活動の限界を感じる時もありました。国際機関の活動と影響力は多大で、大きな組織だから出来ることがあります。製菓専門学校卒業後、数年の社会人経験を経て国連職員を目指して大学進学し、大学院在籍中にUNHCR駐日事務所で働き始めました。
日本の難民や難民申請者のコミュニティを強化する仕事を担当し、その後UNHCRボスニア・ヘルツェゴビナ事務所に赴任し、90年代のボスニア戦争の被害者である国内避難民(IDP)支援、欧州難民危機の際はシリア等からの難民保護にあたりました。現在はナイジェリアでボコ・ハラム等武装集団から逃れるIDPや隣国カメルーン等からの難民保護に携わっています。
ナイジェリアでは約290万人の国内避難民(IDP)がおり、うちボコ・ハラム等から逃れる北東部のIDPが210万人以上です。南部では6万5千人以上のカメルーン難民を受け入れています。
最もやりがいを感じるのは、難民が生活を立て直すお手伝いができることです。食料や水などの緊急支援だけでなく、失った身分証明書の再発行や家族との再会支援など、やりがいがある部分には難しさもつきものです。資金は限られており、苦境にある多くの人々の中でより脆弱な人々を助ける決定をしなければなりません。私たちの仕事は声なき人の声を拾い、難民がより良い生活を見出すサポートをし、皆様からいただいた資金を最大限活用することです。
個人的には、時に子育てと仕事の両立も大変だと感じます。2016年に長男を出産しボスニア・ヘルツェゴビナでは子連れ単身赴任でした。昼休みに授乳に帰ったり、息子を抱いたまま難民の相談を受けたり、出張に同伴したこともありました。ナイジェリア勤務を機に息子はデンマークにいる夫に任せて単身赴任に。2020年に長女を授かり、私と共にナイジェリアで暮らしています。日本では必要ない予防接種、コロナ禍での飛行機移動、腸チフスやマラリアの予防、仕事の合間の搾乳など大変なことも多々あります。
ナイジェリアで最も深刻なのは、北東部での絶え間ない襲撃と政府軍の応戦による不安定な状況です。度重なる襲撃で避難も繰り返され、PTSD(心的外傷後ストレス障害)も深刻です。また、カメルーン難民を受け入れる南部では学校の教室が不足し、資源の共有も限界です。2020年からは新型コロナウイルスの影響で物資輸送や支援が滞り、難民や国内避難民はさらに深刻なリスクにさらされています。
北東部では、国内避難民キャンプでの保護、性暴力の被害者などの支援、支援物資の提供、ひとり親家庭など最も脆弱な人々の生計支援などを行っています。
新型コロナに関しては感染予防のため井戸を増やしたり、手洗い、マスク着用等の啓発活動、一時隔離施設の設置、医療体制の整備も政府と連携し行っています。
別々の国に離れ離れになった難民の家族の再会支援もUNHCRの仕事です。各国のスタッフが関わり、長期間の複雑な法的手続きや外交的な交渉を経て、再会の瞬間に立ち会える時に一番幸せを感じます。未成年の少年が一年ぶりに家族と再会できた時、親に反抗して国境を越えた少女が母親と再会できた時、シングルマザーが子どもを呼び寄せることができた時など、幸せの瞬間に立ち会えた日はとても嬉しく、もらい泣きすることもあります。
一番嬉しかったのは、難民の夫婦の元に産まれパスポートを持たなかった、成長ホルモン分泌不全を患う子どものケースです。父親を難民と認定した国と交渉して子どもに特別旅券を発行してもらい、母親も子どもも父親の元に送り出すことができました。「これで適切な医療を受け、成長することができる」と安堵しました。
UNHCRの目的は、難民や庇護を求める人々の権利を保護し、自己の意思に反し送還されないようにすることです。 政府による国際法の順守を監視し、難民の権利を主張し、緊急援助や物的援助を提供します。この目的に向かって、生まれも育ちも異なる職員が一丸となり達成を目指します。
私が生まれたとき、父は「美しいといえる生き方があるとすれば、それは自分を鮮明にした生き方である」というむのたけじさんの一言から私を美生(みお)と名づけてくれました。愛情たっぷりに育ててくれた両親、祖父母に感謝し、名前負けしないような人生にしたいと思っています。
皆様のご寄付は、難民/IDPキャンプで食料やカウンセリング、母親や赤ちゃんが夜に安心して眠るテント等となり、難民にとっての希望です。 UNHCRナイジェリア事務所16か所のスタッフ一同、支援者の皆様に深く感謝しています。決してご寄付が無駄にならないよう最善を尽くして参ります。 今後ともよろしくお願い申し上げます。
注: このページに掲載の写真は、すべて新型コロナウイルス感染症の拡大前に撮影されたものです。
プロフィール
UNHCRナイジェリア准保護官。
製菓専門学校卒業後、社会人経験を経て、早稲田大学国際教養学部卒。東京大学大学院修士課程修了後、博士課程在学中。2013年よりUNHCR勤務。駐日事務所、ボスニア・ヘルツェゴビナ事務所(JPO派遣制度)を経て2019年より現職。