10年間、生き残るための‘語られない戦争’の中でもがくシリア難民

シリア危機が10年を迎え、悪化する貧困、機会損失、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、難民数百万人が前例のない苦難に直面しています

公開日 : 2021-03-15

壁や家具にカビの臭いが漂う重い空気の中、家族6人全員が一緒に眠る湿った個室で、シリア難民のハラさん(35歳)は、10年前に故郷の国の紛争から逃れ、レバノンに来て以来陥っている負のスパイラルについて語ります。

2021年3月12日 ― 「私たちの主な目的は、命と共にこの戦争から抜け出すことでした」と、ハラさんは2011年に故郷の町ハマから逃れた時のことを語りました。「(レバノンに)平穏はごく僅かだけありました…子どもたちはまだ通学して勉強し、将来は何者かになって両親に誇りを抱かせてくれるはずでした。」

しかし、隣のシリアでの危機が年々膠着状態になるにつれて、徐々に彼女たちがやりくりしていくのは難しくなり、借金もかさみ始めたのです。ハラさんの3人の年上の子どもたちは退学しなければなりませんでした。長男のアメールさん(16歳)は、彼女の夫の日雇い労働の低賃金を補うため、働き始めました。

ハラさんの境遇は、哀しいことに、この世界最大の難民危機に囚われた家族の標準となっています。

(動画の設定で字幕をオンにしていただければ、日本語字幕が表示されます)

シリア紛争が10年目を迎えた時、この地域の隣国で暮らす難民560万人の日常生活は楽になるどころか、さらに厳しくなっています。

貧困と食料難は悪化しており、通学や医療へのアクセスへの道は狭まっています。そして新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、難民が頼りにしていた非正規の仕事の多くが失われました。

「次から次へと、この6~7年でやって来たこと全てが失われました…何も残りませんでした」と、ハラさんの夫ヤセルさんは言いました。「私たちが置かれた状況は…とても厳しいです。その影響は子どもたちにも及び、元気を失くしてしています。」

「僕は16歳です。この年なら、子ども時代の最高の日々を生きるべきでしょう」と息子のアメールさんは付け加えました。「退学したことで、自分はこの人生に望まれていないように感じました。1日12時間働いたものです。学校で勉強しているべき時に、立ち続けているのです。」

レバノンの財政危機によって通貨は急落し、日常品の価格は急騰しています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる致命的な経済への影響と重なり、極貧ライン以下で暮らすこの国のシリア難民の割合は、2020年末までに約90%にまで増加しました。

「私たちは日々の戦争の中で生きているようです」

アマールさんと父ヤセルさんはパンデミックの最中に失業しました。家族は食卓に食べ物を用意することに悪戦苦闘し、子ども2人を重度のぜん息に追いやったこの湿っぽいアパートから立ち退かされる恐怖を味わっているのです。

この状況によって、家族の心理的な健康状態も悪化しています。ハラさんはしばしばベッドから起き上がれない日々を過ごし、彼女も息子のアメールさんも、自殺願望を持つ経験をしているのです。

これは長期化する避難生活、パンデミック、そして衰退する経済状況が引き起こした、シリア難民の間で増加しているメンタルヘルスの問題において広がりつつあるパターンの一部です。2020年末、UNHCRが運営するレバノンのコールセンターによって、自殺や自傷行為を考える難民からの電話が増加していることが報告されました。

シリアでの紛争から逃れたにも関わらず、ヤセルさんは彼らが置かれた状況を一言でこう述べました。「私たちは日々の戦争の中で生きているようです。誰にも語られない、自分たちの中の戦争です。」

シリアから逃れ、そしてリビアで新たな暴力に直面する家族

この地域において、過去10年に渡る紛争から逃れた他のシリア人にも、似た状況があります。ホムズ出身のアーメッドさん(45歳)は2011年末に国を逃れてリビアへ行き、比較的シリア難民が少ないこの地で、熟練した瓦職人として仕事を見つけるチャンスに恵まれることを望んでいました。

「最初にここへ来た時、問題はありませんでした。しかし、状況が変わりました。私たちはシリアで戦争を目撃し、そして再びここリビアで戦争を目の当たりにしたのです」と、2011年に起こった最初の内戦に続き、2014年にぼっ発した新たな暴力と政情不安について、アーメッドさんは語りました。

「2020年は自分にとって最もつらい年でした。戦闘は依然続き、さらに新型コロナのパンデミックが始まったのです」と、妻と子どもたち5人と共にトリポリで暮らすアーメッドさんは語りました。「私が昨今、最も心配しているのは、生計が立てられるか、ということです。ほんの数年前は、沢山の仕事があり、仕事を見つけるのはとても簡単でした。毎日仕事を見つけることができたのです。今ではありえません。」

リビアでの彼らの不安定な状況によって、アーメッドさんはもう一度家族を移動させることを考えています。しかし、彼も妻のガディルさんも、現状ではシリアへ帰還することを考えられません。

シリア難民の最大の受入国トルコに逃れるシングルマザーを襲う貧困

長引く危機によって、全シリア難民の約半数を占める子どもたち、高齢者、障がい者、独身女性、シングルマザーといった非常に弱い立場に置かれた人々は、多大すぎる致命傷を負いました。

アスマさん*(40歳)はシリアのラッカ出身ですが、2015年、3人の子どもと共にトルコ西部イズミルへ逃れました。トルコは360万人以上を受け入れる、世界最大のシリア難民の受入国です。

「戦争で夫を失い、シリアを離れました。彼は爆撃の中で殺されたのです」とアスマさんは説明しました。「トルコへ来た時、人々から借金をして働き始めました。また、私がここへ来た時、私を助けてくれる人々もいました。私は経済援助を受け始めました。子どもたちが学校へ通い始め、ここで安全だと感じていました。」

しかし、自活できるようになって数年経つと、安全を見出したにもかかわらず、アスマさんの健康状態は悪化し、言葉の壁によって医療ケアを受けることが困難なため、衣料工場での仕事を続けられなくなり、生活費をまかなうのが厳しくなっています。今も学校へ通えているのは彼女の真ん中の息子アーメッドさん(13歳)だけです。

「私の今の最大の問題は、家賃と請求書の支払いです」と彼女は言いました。「ありがたいことに、食料は私たちの周囲の人々が援助してくれます。しかし、家賃と請求書は高価です。電気、水道、インターネット代も払う必要があります。特に、唯一学校へ通っている息子のアーメッドにはインターネットが必要なのです。」

新型コロナウイルスの経済的影響を軽減して生活水準の悪化を抑えるためには、国際社会からの新たな長期的経済支援が必要です。昨年、シリア難民の拡大するニーズに応えるために援助団体が必要とした全資金の約半分しか受入側に届けられませんでした。2015年以来、最も低いレベルです。

目の当たりにする危機が終わりを見せない中、国際的な支援の減少、数百万人の難民と彼らを受け入れる地元コミュニティの脆弱な人々の経済状況の悪化は、今までの進歩をだいなしにし、教育や生計へのアクセスを阻害する恐れがあり、あらゆる世代の未来を脅かします。多くの人々は、もう手遅れだとすでに感じているのです。

教育機会と共に、夢を奪われつつあるシリア難民の若者

カリールさん(18歳)は2013年、家族と共にアレッポ郊外からヨルダンへ来て、首都アンマンに落ち着きました。この聡明で話好きな若者は最初、地元の学校で学業を続けられていました。しかし、わずか13歳の時、彼は退学し、彼の大家族を支える手助けをするために働き始めました。

「夢を諦めなければならなかった子どもたちもいるのです」

「私はシリアに戻って医者になりたかったのですが、難民となって変わりました」とカリールさんは語りました。「夢を諦めなければならなかった子どもたちもいるのです。」

今、彼は機械工として週6日働き、長時間に及ぶことも多い労働時間に関係なく、1日7ヨルダンダイナー(10米ドル)を稼ぎます。「疲労困憊です」とカリールさんは言いました。

この地域に今も散らばる他のシリア難民数百万人のように、国の紛争から逃れたにもかかわらず、カリールさんは自分の展望が消えていくのを目の当たりにしています。10年間たっても危機は続き、彼は今、ある種の諦めを持って自分の未来を考えています。

「とにかく、人生は続くのです」と彼は言いました。「これは私の運命です。これを受け入れて、共に生きなければなりません。」

* 保護のため名前は変更されています。

Reporting by Dalal Harb in Beirut, Caroline Gluck in Tripoli, Cansin Argun in Ankara, and Nida Yassin in Amman. Writing by Charlie Dunmore.

原文はこちら(英文)
A decade on, Syrian refugees mired in ‘silent war’ for survival


シリア緊急支援のお願い

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