気候変動がいかに人の移動の危険を増大させるか
地球温暖化は、すでに紛争や情勢不安の中で生活している人々にさらなる脅威をもたらしており、世界の避難者数を増加させています
公開日 : 2021-01-07
2年前までデイビッド・クルーズ* は、ニカラグアで牛や鶏を飼育し、トマトやチリなどを栽培した自分の土地を所有していました。しかし、彼が抗議活動に従事し迫害の対象となる以前より、彼の生活は脅かされていました。
2020年12月2日 ― 何年にもわたって、ニカラグアの気候はより乾燥し予測不可能となっていました。雨が降るとその勢いは猛烈なため、デイビッドの農作物はその被害を受けました。
「私の農作物はダメになりました」と、彼は言いました。「当局が基本的に私のことを“敵”と認識したため、再び農業をするために必要なローンを組むことができませんでした。」
デイビッドが自身の農場を捨て、コスタリカへの避難を余儀なくされたのは、気候変動だけが原因ではありませんが、彼を含む世界で増え続ける避難民にとって、気候変動は国を追われた重要な要因でもありました。地球温暖化が進行するにつれての影響は不均衡です。しかし最も不安定な紛争地域に住む弱い立場の人々は、ひどい干ばつや洪水などの最も深刻な影響を受けています。
ニカラグアからニジェールに至る農村地域に住む人々は、これまで生計を支えていた農業や、家畜を育てるための牧草を見つけることができなくなり、苦しんでいます。より良い牧草地を探すために都市部に移動した場合は、新たなリスクに直面する上、他者との争いになる場合もあります。
10年以上ニジェール南西部の不規則な雨により、自身の家畜の牛の群れが激減していくのを見てきたジューバ・フィドウ(60歳)は、マリの国境近くの村から牛を放牧できる他の地域に、牛を移動させ始めました。しかし彼の家畜は現在農地を横断しており、時には農作物を踏み荒らすため、その土地に住む農家は激怒しています。
「両親はこんな状況を目の当たりにはしませんでした」
「農地で私の牛が発見され、地元当局が毎週私に電話をしてきたので、私は罰金を支払わなければなりませんでした」と、彼は言います。「時には罰金を支払い、私自身と子ども達を自由の身にするため、牛たちを売ることもありました。」
「両親はこんな状況を目の当たりにはしませんでした。」
激しい反乱が隣国のマリとブルキナファソからニジェールに入ってきて、ジョーバの村に及ぶまでには、彼はすでに牛の飼育を諦めていました。彼と彼の2人の妻と10人の子どもたちは、マリから逃れた難民と共にナイジェリアの国内避難民が暮らすタウア地域のインティカーネへと、逃れました。そこで彼らはシェルターと食料を受け取りましたが、家畜がないままでは、ジューバは自給自足の生活に戻る希望をほとんど持てません。
ハリケーン・干ばつ・紛争
2019年には気候関連の危険な状況によって、世界で約2,490万人が140か国で避難しました。
気候変動と関連する避難の大部分は、国内で発生しています。例えばハリケーンやサイクロン、洪水などのような深刻な天気事象で避難をする人々は、可能な限り自宅近くの場所に避難し、洪水の水が引いた際には自宅に戻る傾向にあります。避難が長期に渡ったり国境を越えた移動になるのは、追加の要因がある時です。
中央アメリカにある、グアテマラからコスタリカ北部まで続く乾燥した山岳農地地帯の、いわゆる「ドライ・コリドー」では、干ばつやひどい嵐から逃れるため農家がまず少人数で、近くの都市へと避難します。しかしこの地域の都市は、田舎から来た新参者にとって住みにくい場所となる可能性があります。雇用機会や賃貸物件の減少により、彼らはストリートギャングによる暴力や搾取の危険にさらされ、次の暴風雨の際に洪水の被害に遭うようなスラム地域に住むことを余儀なくされます。
2020年11月には、2つのハリケーンが連続してこの地域を直撃し、特に新型コロナウイルスのパンデミックによってすでに生命の危機にあった人々の困難を、より深刻化させると予想されています。
「迫害や暴力から逃れる人々も含めて、国境を越えた避難はもっと増えていくでしょう」と、最初のハリケーン、イータの通過後にUNHCR中央アメリカ事務所のジョバンニ・バサウ地域代表は述べました。気候変動自体が、避難を誘発するようなその他の脅威を増長させます。例えば貧困の深刻化や、資源やガバナンスへの圧力の増長などによって、場合によっては紛争や暴力を引き起こすこともあります。
ニジェールのサヘル地域は、世界で最も気候変動の深刻な影響を受けている地域の一つです。この地域の気温は、世界平均気温よりも1.5倍の速さで上昇しています。
雨季が短くなるにつれて乾季が長期化している時に、人口は急激に増加しより多くの土地が農地用に転換されるようになり、ジューバのような牧畜民が使用する土地が縮小されています。
農家と牧畜家の間で起こる土地と水を求めた抗争は、この地域での足がかりを得たい過激派によって悪用されてきました。ニジェール、マリ、ブルキナファソの中央サヘル諸国は、現在世界で最速で多くの避難する人々を生み出す危機の震源地となっており、160万人近くの国内避難民と36万5,000人の難民が暴力から逃れ、その数は2020年だけで64万人以上です。
縮小する雪解け、高まる不安
気候変動と情勢不安の関連性はアフガニスタンでも顕著になってきており、着実に上昇している気温により降雨量や雪解けの仕方に変化が起き、鉄砲水の被害のリスクが高まっています。
2018年の干ばつで、アフガニスタン北西部の農村地域の何万人もの世帯が被害を受けました。
ガラム・サキ(45歳)は10人家族でゴル州の山岳地帯に住み、そこでは井戸に水を溜めるために冬の雨雪に頼り、土地を耕し、家畜のために牧草を育てていました。3年前から雨雪が降らなくなり、「私たちは全てを失いました」と彼は言いました。
「実際の価格の3~4分の1程度の価格で、家畜を売りました」
「実際の価格の3~4分の1程度の価格で、家畜を売りました。お金を全て使い切ってしまった時、生活ができる他の場所への引っ越しを余儀なくされました。」
この2年半、ガラムとその家族は、縮小しつつある人道支援に頼ることができるヘラット市南部にある国内避難民向けのもろいシェルターで暮らしています。
一方で、自宅地域の不安定な状態は悪化の一途をたどっており、彼らは戻ることに希望を持てなくなってきています。「私達がそこに住んでいたとき、安全面は良くなかったです。干ばつやタリバン(イスラム原理主義派)がいたからです。しかし今、タリバンの数は増えており、彼らはより良質な武器を持っています」と、ガラムは言いました。
「子どもたちが安全に勉強できて暮らせるよう、神に平和を祈っています。」
迅速な対応が急務
人々が故郷から避難した後もしくは国境を越える際に、気候変動の影響やその他の要因から、彼らは必ずしも安全とは限りません。
アフガニスタンでガラム一家は、毎年冬に浸水しシェルターが崩壊する土地に住んでいます。今年は新型コロナウイルスの世界的流行の影響で、上の子どもたちが日雇いの仕事で稼ぐわずかな収入を失った一家にとって、特に厳しい冬となるでしょう。
一方、安全を求めジューバとその家族が逃れたニジェールのインティカーネは、武装集団による攻撃を受けました。UNHCRは、例えば難民居住地が安全で持続可能な場所に設置され、植林やその他の取り組みを通じて環境による悪い影響を緩和させることで、気候及びその他環境関連の危険に対する避難民の回復力の強化に取り組んでいます。
またUNHCRは、温室効果ガスの排出量の削減や、環境関連に悪い影響を及ぼしかねない活動を最小化することにも着目しています。焦点のひとつは、持続可能で、できれば再生可能なエネルギー源に移行することです。
「新型コロナウイルスのパンデミックが、すでに気候変動や情勢不安、避難の影響を受けている脆弱な人々にさらなる困難をもたらした一方で、国際社会が一体となって対応することで、このような新たな課題にどのように我々が対応すべきか、重要な教訓を学ぶことができるかもしれません」と、UNHCR気候変動対策担当のアンドリュー・ハーパー特別顧問は述べました。
「災害の影響を軽減させたい場合、私達は迅速かつ包括的に行動するために備える必要があります。そうしなければ、深刻な結果がもたらされるでしょう。」
*彼の名前は、プライバシー保護のため仮名を使用しています。
By UNHCR staff
原文はこちら(英文)
How climate change is multiplying risks for displacement
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