From the Field ~難民支援の現場から~ With You No. 44より / UNHCRエジプト・カイロ事務所 保護官 三好 正規

公開日 : 2020-10-07

UNHCRエジプト・カイロ事務所 保護官 三好 正規(みよし まさき)

写真:三好正規職員

モロッコの北端の町タンジェから、ジブラルタル海峡をはさんだスペインまでの最短距離は実に15キロ。向こう岸が肉眼で見えるほどの近さです。ここから海を越えてスペインを目指す人もいますが、すべての難民、移民の方がヨーロッパに向かうわけでもなく、この国には7000人の難民が生活しており、生計を立てる手段を求めて国内で移動を繰り返しています。モロッコにおける活動の難しさは、ひとつには、こうして国中に散り散りになっている方々のニーズをどのように発見し、支援を届けていくかということです。

7000人という難民の数に対し、UNHCRは国内にひとつの事務所しか持つことができず、スタッフの数は40人ほど。助けを必要とする人たちのニーズをカバーし、支援を届けていくためには、他の国連機関やNGO、政府、国家共済組織などといかに上手く連携できるかが鍵です。UNHCRとパートナー機関・団体、NGOは、首都のラバトや多くの難民の方が流入してくるアルジェリア国境の町ウジュダなど、数か所に拠点を構え支援を行っています。しかし、そこにいるのは、この国の難民の約半分にすぎず、何もしなければ残り半分の人々は支援からこぼれ落ちてしまうのです。たとえ近くに事務所がなくても、こうした人々のニーズさえ発見できれば、たとえばリモートでも現金給付という形で支援を届けたり、医療支援の一環としてどこかの薬局と提携して薬を無料で提供するなど、さまざまなアプローチでの支援が可能になります。

支援が行き届いていない都市におけるニーズの発見のために最初に始めたのは、UNHCRや他の国連機関、官、民、NGOで連携し活動していくための枠組みづくりでした。まずは、まだ支援が手薄で、比較的難民が多いカサブランカと北端のタンジェの二都市で、プロテクションワーキンググループという共同の支援の枠組みをつくりました。定期的に会合を開いて連携を深め、逐次発生する問題に共同で対処するとともに、年初に共同行動計画をつくって支援分野を広げていきました。これがうまく機能したことは、モロッコでのひとつの成果です。

それ以外の地方都市の緊急支援のニーズに応えるために行ったのは、実際に難民の方々に会って話を聞くということでした。メクネス、フェズ、マラケシュ、アガディールなど。一緒に参加した他の国連機関、官、民、NGOの合同チームのなかで、モロッコ人スタッフでさえも行ったことのない場所や、首都から500キロも離れた僻地もありました。

とにかくまずは難民の方に会って話を聞いてニーズの発見に注力し、その後のケースマネジメントを通してNGOと連携し各種サービス、支援を届けていく。こうしたアプローチは、UNHCRの強みです。各地で何百人という難民の方の話を聞くと、参加した私たち全員に、強い責任感が生まれます。一回会ったわけですから。独り身の女性もいれば親のいない子どももいて、重い病を抱えている人もいます。実際に言葉を交わし、彼らの話に耳を傾けることで、必要な支援が見えてきて、この人たちを置き去りにはできないというコミットメントが生まれます。こうしたニーズを発見するアウトリーチミッションから帰ってくると、さまざまな支援につながるのです。

ある時は、会場だった地元のNGOの建物に200人の難民が押し寄せ、警察の治安部隊が出動してしまうという一幕もありました。普段、町に紛れるように暮らしている難民の方が一気に集まったために、住民の方たちが驚いてしまったのです。この時、事態の収拾に努めてくれたのは、移民省の高官の方で、その後無事に難民保護面接を行うことができました。これも、いろいろな方を巻き込んで活動を行っていたからこそ乗り越えられた瞬間だったと思います。

今はモロッコでの4年半の任務を終え、エジプトでの活動に従事しています。コロナの影響でまだエジプトに入ることはできていませんが、すでにリモートで、エジプトで保護を必要とする方たちの面接に取り組んでいます。深刻なケースを担当することもあり、やはり「難民の保護活動が人間の生死を分ける」ということを日々実感しています。「どうしてあの時、UNHCRの門戸を叩いてくれなかったのだろう、ここまで来てくれれば、守ることができたのに」。そういったケースを未然に防げるよう肝に銘じながら、エジプトでの活動が続いています。

モロッコ背景情報

UNHCRモロッコ・ラバト事務所の地図現在モロッコに逃れている難民は、約7000人。同じ北アフリカで25万人が逃れているエジプトと比較すると数としては圧倒的に少ないものの、過去10年で難民の数が10倍近くになっていることを考えると、国として新たな局面を迎えている。このような状況下で、難民移民の問題に対して積極的に取り組む趣旨の国王令が発令され、それに呼応する形で2013年末に国家難民移民政策が打ち立てられ、2015年には、国家難民保護法の原案が提出された。

 

プロフィール

国際NGOで緊急人道支援事業に4年半従事後、2007年よりUNHCR勤務。ボスニア、トルコ、チャド、カメルーン、モロッコで保護課職務を歴任後、今年4月より法的支援及び保護面接チームを指揮する保護官としてエジプト・カイロ事務所勤務。

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