新型コロナウイルス感染症の時代 世界各地で奮闘する難民
石けんを製造したり、病人の治療にあたったり、弱者のために買い物を代行するなど、世界各地で難民が、新型コロナウイルス感染症と闘うべく奮闘しています。
公開日 : 2020-07-17
「自分のスキルを役立てられることがうれしいです」
―― カルメン・パラさん (35歳)~ベネズエラからペルーへ避難
ベネズエラ人の医師カルメン・パラさんは、ペルーの救急隊員のひとり。新型コロナウイルス感染が疑われる人を自宅に訪ねて、重症患者を病院に運んでいます。
この2か月近く、カルメン・パラさんはペルーの救急隊員として、12時間あるいは24時間のシフトで働き、新型コロナウイルス感染が疑われる人を自宅に訪ねて、重症患者を病院に運んでいます。
親しい友人に面倒を見てもらっている3人の子どもたちと、数日会えないまま過ごすことさえありますが、カルメンさんは新型コロナウイルス感染症の対応チームの一員に選ばれたことを、誇りに感じています。
「働けることが、助けを必要としている人を支援できることが、自分のスキルを役立てられることがうれしいんです」と、35歳になる未亡人のカルメンさんは言います。2017年に保護を求めてペルーにやって来るまでは、彼女はベネズエラで医師として働いていました。
カルメンさんはそれからの2年間をウェイトレスや店員として働いて過ごし、さらに放射線科クリニックの受付を務めたのち、国連の難民支援機関であるUNHCRと地元NGOの援助を得て、ペルーでも医師としての資格を認めてもらえることになりました。カルメンさんは今年初めに放射線科クリニックに戻りましたが、今度は受付ではなく医師として採用されたのです。
その後間もなく、パンデミックが原因でクリニックが閉院してしまった時、カルメンさんはペルーの新型コロナウイルス感染症対応に関わるべく、救急隊員の職に応募しました。
今年の世界難民の日現在、新型コロナウイルス感染症が引き起こしたパンデミックの最前線で闘う難民は、カルメンさんだけではありません。
過去数か月間に世界中で多数の人々が苦しんできたように、仕事や教育の場を失い、家族や友人と直接のコンタクトをとれなくなる可能性があるにもかかわらず、医療従事者から教育者、ブロードキャスターからボランティアまで、多くの難民が自ら貢献できる方法を見出しています。
「今こそかつてないほどに石けんが必要とされています」
―― ミディア・サイード・シドさん ~シリアからレバノンへ避難
リモート形式で石けん作りを学ぶコースを受講した、シリア人難民のミディア・サイード・シドさんは、レバノン南部にある自宅で、自分の子どもたちと同じコミュニティで暮らす他の難民のために、石けんを作っています。
ミディア・サイード・シドさんは、石けんを作ることで貢献しています。自身の子どもたちと、レバノン南部で暮らす他のシリア難民が定期的に手を洗って、新型コロナウイルス感染症の流行を食い止められるようにと。
「今こそかつてないほどに石けんが必要とされています」とミディアさんは指摘します。
アレッポで生活していた頃のミディアさんは、この地域で生産される有名な月桂樹(ローレル)の石けんを作るために、材料を両親が煮詰めている様子を眺めていたものです。UNHCRがレバノンで提供するコースを受講して、ミディアさんはコールドプロセス(注:低温製法とも言う。材料にあまり熱を加えずに時間をかけて熟成させる石けんの製造方法)で自宅で石けんを作る手法を学びました。
薬用石けんを作ることで新型コロナウイルス感染症予防に貢献してみないかと打診された時、ミディアさんは二つ返事で引き受けて、オンラインの研修セッションを受けることになりました。
「私自身のためになることですし、ほかの人びとの役に立つこともできますから」とミディアさんは言います。
「ほかの女性たちにも薬用石けんの作り方を教えてあげたいと思っています」
「私が隣人の子どもたちを教えたいと申し出ました」
―― シドラ・メディアン・アル-ゴタニさん(14歳)~シリアからヨルダンへ避難
ヨルダンのザータリ難民キャンプ内の学校が休校している間、14歳のシリア人難民のシドラ・メディアン・アル-ゴタニさんは、弟と隣人の子どもたちが自宅で勉強する手助けをしています。
ヨルダンのザータリ難民キャンプで暮らすシドラ・メディアン・アル-ゴタニさんは、パンデミック対応に貢献する上で、年齢は妨げにはならないことを証明しています。
教育は「人間のパーソナリティを形成する」と信じて教師を志すシドラさんは、新型コロナウイルス感染症の流行でキャンプ内の学校が休校になり、自分の弟と隣人の子どもたちが勉強できなくなることを危惧していました。
「生徒たちはeラーニング(注:インターネットを使った学習)のアプリ、もしくはテレビ教育を通じて勉強しなくてはなりません」とシドラさんは説明します。「でもこういった教育方法には手助けが必要ですし、彼らの親は援助ができなかったので、私が隣人の子どもたちを教えたいと申し出たんです」
シドラさんが直面している最大の課題は、アニメ番組を見てばかりいないで勉強をするようにと、若い生徒たちを根気強く説得することだと言います。
「難民の回復力と体験は、受け入れ国において支えになり得ます」
―― ヘヴァル・ケリさん ~シリアから米国へ避難
シリアからの難民だったヘヴァル・ケリさんは、ジョージア州アトランタの大きな病院の循環器科のフェロー。彼は新型コロナウイルス感染症のドライブスルー方式の検査施設で、ボランティア活動もしています。
ヘヴァル・ケリさんは教育の重要性を心得ています。ヘヴァルさんは2001年にアメリカ南部の町、ジョージア州クラークストンに、18歳のシリア人難民としてやって来て、10か月後にジョージア州立大学に入学しました。
それから20年が経過した今、ヘヴァルさんはアトランタの大病院の循環器科のフェローであり、移住者と難民のコミュニティ出身の次の世代の医師育成に特化した、幾つかの非営利団体の共同設立者でもあります。最近は、新型コロナウイルス感染症のドライブスルー方式の検査施設でボランティア医師として働き、クルド人コミュニティの人びとにインターネットを介してウイルスに関する知識を提供する時間も見つけました。
「難民もこの闘いに加わる必要があります。なぜなら、私たちの回復力と体験は、私たちを受け入れてくれた国々の多くにおいて、支えになり得るからです」
ヘヴァルさんは先日行われてSNS上で広く共有された、国連事務総長アントニオ・グテーレスとのビデオ通話の中でそう語りました。
「団結することは人間としての責任だと僕は思います」
―― シャディ・シュハデさん ~シリアからスイスに避難
スイスのジュネーヴにあるスーパーマーケットで買い物をするシャディ・シュハデさん。彼は他のシリアからの難民のボランティアたちと一緒に、新型コロナウイルス感染症から身を守るために自宅で待機している人のために、食料や生活必需品を買って届けています。
スイスのジュネーヴで暮らすシリアからの難民シャディ・シュハデさんは、危険や不安感を乗り越えた体験があるからこそ、難民はこのパンデミックが続いている間、人々が団結する必要性をたやすく理解できると信じています。
「団結することは人間としての責任だと僕は思っています」とシャディさんは話します。「ひとりの難民として、危機とは何を意味するのか僕には理解できますから」
さる3月にスイス政府が、年配者と持病のある人は自宅で待機するよう呼びかけた時、シャディさんと妻のレグラさんは、大勢の人が助けを必要としていることに気付きました。
シャディさんは速やかにジュネーヴとローザンヌで暮らすシリア人の友人に声をかけて、集合住宅のロビーやスーパーマーケットに、外出できない人たちの代わりに買い物の代行やお使いを申し出る、チラシを貼り出しました。その後数週間にボランティアたち――大半はシリアからの難民です――は200人分の買い物を代行しました。
「新型コロナウイルス感染症から身を守れるよう、毎日みんなの意識を高めています」
―― ディジュバ・アロイスさん (75歳)~コンゴ民主共和国からケニアに避難
ケニアのカクマ難民キャンプで教会が閉鎖され、75歳の牧師ディジュバ・アロイスさんは、自転車で移動して会衆に説教をし、新型コロナウイルス感染症に関する情報を広めています。
コンゴ民主共和国からの難民である75歳のディジュバ・アロイス牧師は、彼が暮らすケニアのカクマ難民キャンプには、ふたつの種類の難民が存在すると語ります。新型コロナウイルス感染症に関する知識を備えた人と、そうでない人が。ディジュバさんは後者に知識を与えることを、自分の使命と見做しています。
牧師としてディジュバさんは、説教壇から情報を分かち合うことには慣れていますが、新型コロナウイルス感染症の流行を阻止するためのロックダウンで教会が閉鎖されています。そこで、説教と同じような機能を果たせるように、自分の自転車に新しい役割を与えました。手描きのポスターを自転車の正面に貼り、マイクをハンドルバーに取り付けると、キャンプ内を回って人々に手を洗うことを強く呼びかけているのです。
「人びとが新型コロナウイルス感染症から身を守れるように、私は毎日みんなの意識を高めているのです」とディジュバさんは言います。
「不安に直面しているリスナーに情報を浸透させたかったのです」
―― ナルジス・アル-ザイディさん(20歳)~イラクからニュージーランドへ避難
元々はイラクからの難民で、現在はラジオ・プレゼンターとして働く20歳のナルジス・アル-ザイディさんは、新型コロナウイルス感染症にまつわる情報を、ニュージーランドのウェリントンで暮らすリスナーに発信しています。
ニュージーランドの首都ウェリントンの各地にちらばって生活する難民の間に認識を生み出すには、通常とは異なるアプローチが必要になります。
イラクからの難民だった20歳のナルジス・アル-ザイディさんは、大学生であり、かつ『ボイス・オブ・アロハ』というラジオ番組のプレゼンターでもあります。この番組は、難民だった人たちとそうではない人たちが世界観や体験を分かち合うための、ひとつの開放的なプラットフォームを提供することを趣旨に掲げています。
ナルジスさんと他のプレゼンターたちは、新型コロナウイルス感染症についてリスナーと語り合い、SNSを介して情報を分かち合うようになりましたが、公的なアドバイスはアラビア語やアムハラ語やペルシア語やスペイン語に翻訳されておらず、デジタル的なものに慣れていない人には情報が得られないことに気付きました。
「難民という出自は、その人に孤立感を味わわせるものです」とナルジスさんは話します。
「私たちはリスナーに情報を浸透させたかったのです。私たち全員が圧倒されてしまいそうな状況に直面していましたし、次に何が起きるのか、それが自分たちにどんな影響を及ぼすのか分からないという不安感が、主に戸惑いを引き起こしていました」
ナルジスさん、ディジュバ・アロイス牧師、シャディさん、ケリ医師、シドラさん、ミディアさん、そしてカルメンさんは、6月20日の世界難民の日を記念してUNHCRが製作したビデオに登場しました。このビデオには、南アフリカ人の俳優でUNHCRの親善大使であるノムザモ・ンバタさんがナレーションを添えています。
「難民と連帯し、彼らがこのウイルスとの闘いとどう向き合い、何を貢献しているのか知らせることは、今までになく重要です」とノムザモさんはコメントを寄せました。
「誰だろうとできることはあるのです。誰だろうと存在する価値があるのです」
世界難民の日に寄せたメッセージの中で国連難民高等弁務官のフィリッポ・グランディは、自分自身の立場が脅かされているにもかかわらず、パンデミックに対応するために率先して活動し始めた難民を讃えました。
「新型コロナウイルス感染症と闘うにあたって私は難民が見せる回復力……そして自分たちと他の人たちの人生をより良くしようとする意志の強さから、インスピレーションを得ています」
著者:クリスティ・シーグフリード、レポート:レジーナ・デ・ラ・ポーティラ(ペルー、リマ)、ワルダ・アル-ジャワヒリ(レバノン、ベイルート)、モード・アル-タヘール(ヨルダン、ザータリ難民キャンプ)、からサミュエル・オティエノ・オディアンボ(ケニア、カクマ難民キャンプ)2020年6月19日
原文はこちら(英文)
https://www.unhcr.org/news/stories/2020/6/5eeb78b84/seven-refugees-making-difference-during-time-covid-19.html