防寒の備えがないベネズエラ人に迫る冬
凍えるような天候がしだいに南アメリカをおおい、脆弱なベネズエラ難民及び移民が更なる苦難に備えています
公開日 : 2020-06-11
母国ベネズエラにある家から7,000kmにも及ぶ困難な陸上の旅を終え、チリに到着後の厳しい数か月を乗り越えた後に、ディアス一家の生活はようやくある程度安定しました。母親のアイリーンは、健康な男の赤ちゃんを出産し、父親のホセ・ドミンゴはチリの首都サンティアゴで就職できたばかりでした。その後、新型コロナウイルスの世界的流行のため、一家は振り出しに戻ってしまいました。
サンティアゴ(チリ)、リマ(ペルー)2020年5月29日 ― ホセ・ドミンゴは仕事を失い、一家4人分の食料や家賃などの基本的生活必需品をただ賄うことすらもできなくなりました。
そして状況がこれ以上悪化することはないだろうと思われたときに、身をきるような南半球の冬の訪れと共に気温が低下し始めました。冬は6月から9月まで続きます。
「私たちは本当に冬を心配しています…なぜなら私たちにとって寒い気候を経験するのは初めてだからです」とアイリーンは言い、ふるさとカラカスの真冬の気温は17℃以下にめったにならないと付け加えました。対象的にサンティアゴでは、冬に一桁台の低い気温となるのは一般的です。「私たちは厚手のコートや暖房器具、毛布すら持っていません」
新型コロナウイルス感染症の世界的流行の直後にやって来て、現在も危機の最中にあるふるさとを離れて暮らす500万人以上のベネズエラ人にとって、迫りくる冬は新たな心配の種となっています。
「私たちは本当に冬のことを心配しています…なぜなら私たちにとって寒い気候を経験するのは初めてだからです」
新型コロナウイルスの流行は世界に大きな打撃を与えており、何百万人もの雇用喪失を世界にもたらし、経済を不況へと陥れました。国連の推定では、今回のパンデミックとウイルスの感染拡大防止のために発令されたステイ・アット・ホーム令は、今年の終わりまでに5億人を貧困に陥れる可能性があると警告しました。
難民はこの危機の影響として、一般の人よりもさらに弱い立場に置かれる傾向があります。集団で標準以下の住居に住み、非公式分野の不安定な仕事でどうにか生活している彼らは特に、隔離生活によって生じる経済的損失を切り抜け、感染防止対策を行う準備が整っていません。何千人もの人々が、飢餓かもしくはステイ・アット・ホーム令に反して街路で物を売ったり物乞いしたりするという厳しい選択を迫られています。家賃を支払うお金がないため、すでに多くの人々が強制退去させられ路上で生きる苦しい生活をしています。
そしてベネズエラ難民と移民は、ふるさとの食料不足や蔓延する国内不安、及びインフレから逃れて来ているため、免疫力が弱くてウイルス感染のリスクが高く、しばしば危険な健康状態になっています。
つまり、南半球の冬は、南アメリカ大陸先端にある5か国と、冬の寒さが同様に厳しいアンデス山脈の国であるペルーに住む150万人以上のベネズエラ人にとって、最悪の時期に来たといえるかもしれません。
「パンデミックが、私たちの生活を本当に悪化させてしまったことに動揺しています」と、カラカスで小さな店を営んでいたシェフ、アイリーン(30歳)は言いました。「私たちは目標に向かって大きく進んでいましたが、不運なことに新型コロナウイルスは私たちを完全に脱線させました。」
サンティアゴにある慈善団体ワールド・ビジョン・インターナショナルで働くホセ・イグナシオ・ペルラルタは、冬の数か月はコロナウイルス感染を増加させるだけでなく、その他多くの寒冷気候による苦痛をもたらす可能性が高いと警告しました。
「新型コロナウイルス感染症を筆頭に、医療の必要性を急激に高めるインフルエンザのような、その他の呼吸器疾患も多く確認されるでしょう」と彼は言いました。「また、住宅支援や温かい食事、寒冷気候向けの装備などを必要とする家族が増加することが予想されます。」
幸運なことにアイリーンと彼女の家族は、UNHCRとそのパートナー団体であるチリのワールド・ビジョンから、特別冬期用支援を受ける必要がある数百万人のベネズエラ難民と移民の中の一家族でした。800近くの電子引換券がディアスのような家族たちに提供され、Eメールで配信されたバーコードを使うことで、暖房器具や毛布、温かい衣服などを購入することができるようになります。
UNHCRは、チリと近隣諸国で脆弱な家庭が屋根のある生活を維持できるように家賃助成金を増やし、食料の入った食料カゴや衛生キット、毛布などを配布しています。
「新型コロナウイルスを筆頭に、他の呼吸器疾患も多く確認されるでしょう」
パンデミックと迫り来る冬という、二重の苦難によってひどくなったニーズの規模を考慮すると、人道支援活動を支えることはきわめて重要です。UNHCRのベネズエラ難民と移民に対する対応計画は、危険なほどの資金不足で、必要とされる資金のうちのたった12%しか集まっていません。
5月26日、ベネズエラ難民と移民との連帯として、国際支援者会議がオンライン上で開催されました。60か国以上の代表と国連機関、国際金融機関及び市民社会が、行き場を失った人々と主要な受け入れコミュニティのための資源を流動化させ、さらに主要組織との連携を強化することで、この前例のない危機に対処するために集まりました。
迫りくる南半球の冬は、避難を強いられたベネズエラ人達が直面している困難を増大させるだけだと、シャビア・マントゥーUNHCR報道官は5月29日金曜日にジュネーブで行われた記者会見で述べました。
「健康面でのリスクに加え、コロナウイルス関連の都市封鎖と封じ込め政策は、多くのベネズエラ難民と移民に様々な苦難をすでにもたらしています」と彼女は述べました。「冬の訪れとともに、UNHCRは深まる危機に向けて備えています。」
西ベネズエラ出身でパン屋の元従業員、マリッツァ・ピノ・ザンブラーノ(37歳)は、彼女と彼女の家族が安全な地として見つけたペルーのアンデス山脈の街、クスコのレストランでの仕事を台無しにした、このパンデミックの明るい側面を見つけようとしていました。
標高3,400mの高さにあるクスコの街の冬は、過酷なことで有名です。マリッツァは、仕事を失ったことで少なくとも彼女の職場との往復で厳しい天候に立ち向かう必要がもはやなくなり、夫と10歳の息子と小さな部屋で一緒にいながら寒さを凌ぐことができると考えるようにすることで、自分自身を元気づけています。
「一度外に出れば病気になるだけでなく、その病気を家族全員に感染させてしまうこともあり得ます」と、彼女は言いました。
未だに、この家族状況の現実は計り知れません。彼らは機械工の夫に時折入る雑用などの臨時仕事と、UNHCRと他団体から受け取った数ドルでどうにか暮らしています。
「私たちは自分たちの首を絞められているような感覚です」そうマリッツアは言いました。「すべてが終わることを祈るばかりです。」
Stephanie Rabi Misle in Santiago, Chile, and Emily Alvarez in Lima, Peru
原文はこちら(英文)
Winter threatens Venezuelans unprepared for the cold
南米ベネズエラ緊急事態
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