気候変動と避難

公開日 : 2019-11-11

紛争と気候変動はなぜ、人々に故郷からの避難を強いる有害な組み合わせとなるのでしょうか

ナイジェリア難民のハワリ・オマー(46歳)がチャド湖で10日間にも及ぶ漁業に従事する間、彼の家族は数マイル離れた難民キャンプに残されています。ハワリの父親はナイジェリアで暮らしていた村でボコ・ハラムに殺され、彼は家族10人とともにチャドへの避難を強いられました

彼らはハワリ・オマーの父親を殺し、近隣に火を放ち、命がけで走ることを強いました。できるだけたくさんの家族を探して集め、彼は、ボコ・ハラムの殺人者たちから逃れるため、ナイジェリア北東部にある故郷バガを逃れました。一緒に国境を越えてチャド湖のチャド側へと渡ったのです。

 
2019年10月15日 ― 銃弾から逃れても、漁師のハワリ(46歳)は自身の問題が解決していないことを理解しました。ボート、網、その他用具といったUNHCRの支援により、彼は何とか新しいコミュニティーで商売を営み、自分と家族を養っています。しかし、水源であり数百万人にとっての生活の糧である、かつて巨大だったチャド湖が1960年代以降、90%に縮小しているのです。浸食する植物は残された湖の半分を覆い、ボートが湖に近づきにくくなっています。気候変動、人口増加、制御できない灌漑によって、周辺地域は砂漠化、森林伐採、干ばつに苦しんでいます。

 
その結果、チャド湖周辺のコミュニティーにおける生活は、年々厳しくなっています。この地域の暴力によって、何百万もの人々がチャド、カメルーン、ナイジェリア、ニジェールの故郷から追われているのです。増加を続ける避難民は、この地域で減少しつつある資源を少しずつ奪い合うことを強いられています。

 

⇒ ナイジェリア難民危機

⇒ 砂漠化するニジェール、マリ、ブルキナファソを襲う難民危機

 
ハワリの物語は、気候変動の最前線にいる世界各地の避難民の姿を描いた一例にすぎません。UNHCRが発表した2018年末時点における難民2,040万人のうち3分の1が、多くの場合、気候変動の悪影響によって極めて弱い立場に置かれ、資源やインフラの欠如に苦しんでいる発展途上国に避難しています。チャド湖の水量減少や海岸地域の海面上昇、長期化かつ悪化する干ばつ、または忍び寄る砂漠化といった、自然災害や徐々に影響を増す気候変動のインパクトによって、新たな避難民が生まれ、すでに避難をしている人々に苦難を強いることがありえるのです。

 
カメルーン北部のミナワオ難民キャンプ周辺地域を脅かす砂漠化について、UNHCR、ランド・ライフ社、ルター派世界連盟は連携し、この地域の100ヘクタール(約100万平方メートル)以上の土地を修復しました。

ミナワオの地域は、地球温暖化とナイジェリア難民5万8,000人の活動により重大な森林伐採に直面しており、UNHCRとパートナーであるランド・ライフ社、ルター派世界連盟は森林再生プロジェクトを開始しました。今後2年間で ― 難民とともに ― このサイトの内外に2万本の木を植える計画で、不利な環境下で植物が生き延びることができるよう“コクーン(繭)”テクノロジーが使用されています

難民とUNHCRにとって、環境問題はなぜ重要なのでしょうか?

気候変動と自然災害には、人々が国境を越えて逃れることを強いる脅威を増大かつ悪化させる場合があります。気候、紛争、貧困、迫害の相互作用によって、難民危機はより複雑化します。「国境を越えた強制移動は、気候変動や災害と、紛争や暴力との相互作用に由来することがあります。あるいは自然災害だけによる場合もあれば、人災だけによる場合もあります。どの状況においても、国際的な保護が必要となるきっかけとなります」とフィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は述べました。

 

気候、紛争、貧困と迫害の相互作用によって、難民危機はさらに複雑化します

 

例えば、干ばつが悪化するソマリアでは、アルシャバブ(ソマリア国内の武装勢力)が関与する暴力も伴い、数千人が国内で避難を強いられるか、またはエチオピアに逃れています。エチオピアに逃れたソマリア難民のシャーレ・ハッサン・アブディラフマンは、アルシャバブの捕虜となっていた状態から生き延び、何とか脱出したのです。しかし、一度自由になっても、彼は逃れる以外選択肢はない、と決意しました。干ばつで生計を切り詰め、残された食糧が減っていたにもかかわらず、アルシャバブは、彼と他の農家の人々に収穫の中から“税金”を納めることを強制していたのです。数年前は、雨が降ると近隣の川があふれて、土地を潤し、作物が育ちました。「今、川には水はなく、空には雨がありません」とシャーレ・ハッサンは言いました。川と天気はアラーの神の手の内にある、と彼は付け加えましたが、アルシャバブの脅威と強奪によって、生活は耐え難いものになったのです。「あの地に残る人はいません。あるのは干ばつだけで、雨はないのです。そして残された人々は、アルシャバブに殺されることを恐れています。」

 

⇒ エチオピア/ソマリア難民危機

動画:干ばつから逃れるソマリア難民

 

(動画右下の設定で字幕をオンにしていただければ、日本語字幕が表示されます)

2019年3月、アフリカ南部モザンビーク、ジンバブエ、マラウイを襲ったサイクロン・イダイで被災し、UNHCRのシェルター支援を受けた母子

現存する難民もまた、気候変動や自然災害、災害危機の犠牲になりえます。例えば、2019年3月、熱帯性のサイクロン・イダイがモザンビーク、ジンバブエ、マラウイを襲った時、UNHCRは難民の家族をより安全な避難所へ移動させ、テント、ビニールシート、衛生用品、清潔な水を提供しました。同じように、モンスーンの嵐や洪水、地滑りの被害を軽減するため、UNHCRはバングラデシュ南部でロヒンギャ難民を援助しています。

 

⇒ サイクロン・イダイ 緊急支援

 
しかし、自然災害、地権、食糧や水といった気候変動の悪影響によって拡大した問題をめぐる闘いが加われば、強制移動自体が緊張状態と潜在的な紛争の根源となりうるのです。このような問題は、難民と難民ではない近隣との間の関係を悪化させ、新たな難民危機の発生を助長することすらありえます。

バングラデシュのクトゥパロン難民キャンプの配給センターで、新しいガスストーブの使用方法についてトレーニングを受けるロヒンギャ難民

「気候要因によって人々が家を追われているだけではなく、大規模な難民移動自体が、気候に誘発されたものであろうとなかろうと、環境へのインパクトとなり、難民は頻繁に気候的に問題となる地にいることになるのです」とグランディ弁務官は語りました。「新しいエネルギーの選択、森林再生活動、調理に使うクリーンな燃料とテクノロジーの利用を通じて、難民危機が環境に与える影響を軽減するために、UNHCRは何年にもわたって尽力してきました。我々は今、再生エネルギー戦略を立ち上げ、これらの課題に対処する手段を改善していきます。」

 

⇒ モンスーン豪雨にさらされるロヒンギャ難民危機


気候変動と難民について、 法律は何を語っているのか?

気候変動による避難の多くは、国境を越えず、国内で起こっています。たとえ人々が気候変動に関わる災害や自然災害のみの影響で逃れ、国境を越えたとしても、彼らは一般的に1951年の「難民の地位に関する条約」*の定義で、難民とはみなされません。この条約で、難民とは「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者」とされています。そのため、法律的には、“気候難民”という言葉は国際法に基準がない誤った名称であり、気候と人々の移動が相互に影響し合う複雑な状況を正確には反映していません。しかし、グランディ弁務官が指摘したように、「人々が気候の緊急事態によって家を追われるイメージは、まさしく人々の関心を捕らえています。」

 
* 難民の地位に関する条約

https://www.unhcr.org/jp/refugee-treaty

 
前述したように、気候変動と災害が国境を越える強制避難を生み出す状況を悪化させ、さらなる避難を誘発することが頻繁にあります。特に、紛争や迫害が連動した災害/気候要因の結果として人々が避難する地域では、1951年の条約が適用される可能性があります。公の秩序の深刻な混乱の末に避難を強いられたら、または強いられた場合、気候変動や自然災害によって国境を越えて避難する人々の中には、地域の法における“難民”の定義が適用される人もいます。適用されない人々も、避難した国における一時的な保護や滞在、その他の形式の居住の手配といった国際的保護を必要としているかもしれません。

太陽光発電所が開設されたヨルダンのアズラック難民キャンプで、シェルターの外で夕暮れを楽しむことができるようになったシリア難民

要するに、国際法は、気候変動や強制移動に関わる幅広い状況において、役割を果たすことができるのです。今後さらに多くの人々が環境要因で避難することが予想され、UNHCRはこの分野の政策形成および法的枠組み作成や、適応作業に深く関わっています。国際保護の専門性と避難危機における数十年にわたる経験があるため、必要な時はいつでも、UNHCRはそのリソースを活用する準備ができています。

 
「災害に関連する避難が発生する所では、保護に配慮したしっかりとした実務が必要とされるものです。UNHCRは様々な帰還と連携しつつ、政府を支援し続け、緊急対応において強固な専門性を蓄積しています」とグランディ弁務官は語りました。国々が難民に対してどう責任を共有していくべきかを示す青写真となる「難民に関するグローバル・コンパクト」* は、災害のリスクを軽減する戦略において、難民を含めて考えていくことが求められている、とも付け加えました。

 
* 難民に関するグローバル・コンパクトは

⇒こちら

2013年、フィリピンを襲ったタイフーン・ハイヤンにより被災した家族に、UNHCRはシェルター、ソーラーランタン等の救援物資を提供

持続可能な、気候に優しい遺産を築く

2013年後半、タイフーン・ハイヤン(平成25年台風第30号)がフィリピンの家々を破壊した後、アルジーナ・ラカバとその家族は、UNHCRとパートナー団体のUPSが提供するテント、調理器具、マット、ソーラーランタンを頼りにしました。この台風により400万人以上が家を追われ、数千人が死去、コミュニティーが完全に抹消されました。UNHCRは家を流された人々の漸進的な帰還を可能にし、政府による基本的なサービス支給力強化に努め、避難民の自発的帰還の権利を擁護しました。

 

嵐が去ると、洪水で流された時に溺れかけたアルジーナの夫ジョエルは、海面よりかなり上に新しく頑丈な住宅を建てる地元の労働者たちに加わりました。住宅が気候による未来の脅威に対応するように装備されていることが、安全で持続可能な帰還のために重要です。

 

また、UNHCRは、海抜上昇のような危機によってその地域に住めなくなる時、人々を危険地帯から退去させるための計画的移転も援助します。UNHCRは、ジョージタウン大学、その他のパートナー団体と共に、危機に瀕した人々を、人権を尊重しつつ災害や気候変動の影響から守るため、計画的移転のガイダンスを作成しました。最近、UNHCRは、コスタリカとパナマ両政府が、災害を想定し、仮想の放射性物質の降下にリアルタイムで対処する演習に参加し、このようなシナリオにおいて避難する人々が必要とする保護に関するガイドラインを発行しました。

 

最後に、UNHCRは上からクリーン・テクノロジーを投下し、このような技術を押しつけることで持続性や回復力を築くことができるとは考えていません。UNHCRは難民と受入コミュニティーの力をつけるために、彼らのエネルギー・プログラム計画・実施への完全参加、技術とビジネス・スキルにおける知識伝達と能力強化、さらに、各地域にふさわしい介入につながる下からの革新を支援することを続けていきます。

アルジェリアのティンドゥフ難民キャンプにて、リサイクルのペットボトルに砂を詰めて、気候に強いシェルターを建てる若いサハラウィ難民

UNHCRにおける環境配慮の足跡とは?

1万7,000人のスタッフが130か国以上で活動する組織には、環境へインパクトをもたらす現場での活動の“足跡”が明確にあります。しかし、UNHCRには、大規模な変化をもたらす力と機会もあります。「ブルーを緑に」(* ブルーは国連のカラー)政策の一環で、UNHCRはプラスティックと紙の廃棄物を削減し、水とエネルギーを大切に扱い、持続可能な供給者やリサイクル電化製品を用いてe-廃棄物を切り詰め、化石燃料の利用を段階的に廃止し、グリーンエネルギーと持続性を内部で利用する基金を確立するべく、努めています。

 
UNHCRは、難民、避難を強いられたコミュニティー、無国籍者の命を救い、権利を守り、より良い未来を築くために奉仕するグローバル組織です。

“ミナワオに再び緑を”森林再生プロジェクトの一環として、カメルーンのミナワオ難民キャンプの種苗場で、赤ちゃんを背負いながら種まきをするナイジェリア人の母親

Barney Thompson

 
原文はこちら(英文)

Climate change and displacement


誰ひとり、置き去りにしない ― UNHCRのシェルター支援

UNHCRは緊急事態の発生後、緊急用テントをはじめ必要不可欠な支援物資を速やかに用意。人々を保護し、安全な避難場所を用意することが、UNHCRの最優先事項です。難民の命を守るUNHCRの援助活動にご協力ください。

※当協会は認定NPO法人ですので、ご寄付は税控除(税制上の優遇措置)の対象となります。

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