実践例:高等学校の継続的な難民支援活動(名古屋)

公開日 : 2019-02-14

名古屋経済大学市邨高等学校の生徒の皆さんが、公民の授業での学びを深められ、本格的に難民支援活動をスタートされました(これまでの学びの様子はこちら)。

2018年12月21日に開催された『第1回市邨高等学校難民支援の夕べ』(当協会後援)に向けて、多くの方々との連携を経るなかで、より一層深い学びを実現されていく様子を、名古屋経済大学市邨高等学校の松野至先生からご寄稿いただきましたので、ご紹介いたします。

難民支援を通して「深い学び」の実現へ

(名古屋経済大学市邨高等学校 社会科 松野 至)

〜学びの振り返りから、未来へ向けた新たな計画へ〜

文化祭で私が担任するクラスは「難民について考える」と題した取り組みを行いました。

終了後の振り返りから、「自分が世界に対して貢献できた」という自己有用感と、「もっと貢献したい」というアクティブな気持ちが感じられました。

そして、「難民について、知る・考える・伝える活動を続けたい」という思いが、一般市民への働き掛けである「第1回 市邨高等学校難民支援の夕べ」の計画へと繋がりました。

学校祭で上映した自作の動画を見て、考えてもらおうというプランです。

市邨高校 難民支援 UNHCR

中東ヨルダンでデザイナーとして難民の方々の経済自立支援をされている林芽衣さん(親しみを込めて、「さん」付けで呼ばせていただきます)にこの計画について伝え、難民自身の製作品のチャリティーバザー併催のお願いをしたところ、快く引き受けていただけただけでなく、帰国・来校していただけることになりました。

〜難民キャンプでの経済自立支援の現場について知る〜

林芽衣さんの来校日が決まり、生徒・保護者に伝えたところ、「芽衣さんから直接話を聞きたい」「難民の方が作った商品を購入したい」との声をいただきました。

そのため、実行委員会が中心となり、校内で「芽衣さん交流会」を行うことになりました。

市邨高校 難民支援 UNHCR

交流会の前半部分では質問会を行い、「難民支援を行う中で苦労されていること」「文化や言語、宗教が異なる中東で、普段から気をつけていること」「難民の方と商品を製作されて、どのようなことを感じているか」「女性として支援を行う中で、苦労されていること」などを伺いました。
実際に活動されている方からのリアルなお話を伺えたことで、難民支援の現場について深く知り、考えることができました。
交流会の後半では、チャリティーバザーを実施しました。

〜生徒・保護者・教員の連携〜

「芽衣さん交流会」「第1回市邨高等学校難民支援の夕べ」の両計画は、実行委員のボランティアが企画・立案しました。

市邨高校 難民支援 UNHCR
また、たくさんの教員が関わりました。
「芽衣さん交流会」後半の市邨高校チャリティーバザーでは、澁谷校長をはじめ、40名を超える教職員も参加し、賑やかなものとなりました。
生徒・保護者・教員の一体感が生まれました。
市邨高校 難民支援 UNHCR

〜保護者の方から〜

○私たち保護者も「芽衣さん交流会」「第1回 市邨高等学校難民支援の夕べ」に参加させていただきました。

市邨高校 難民支援 UNHCR

林芽衣さんのプロジェクトは、ヨルダンへ逃れた難民の女性が自分でお金を得ることができるようになるという自立支援で、とても素晴らしい活動です。
その活動を初めて知りました。
松野先生の導きで自ら考え行動し、取り組む子供たちの姿は、家庭では見ることができない一面でした。
難民について考える活動は、クラスを超えて学校に広がり、さらに、難民の方々の作品の注文数も多くなり驚きました。
私たち保護者も素敵なカバンを購入させていただきました。
今回の「市邨高等学校難民支援の夕べ」が、第2回、第3回と続いていくことを期待しています。
林芽衣さんと山下さん(NHK)とランチまでさせていただき、多くのお話を伺うことができ、とても楽しい時間を過ごすことができました。

○林芽衣さんについては、子供から教えてもらい初めて知りました。
とても笑顔の可愛い女性で「こんなに可愛い方が、中東ヨルダンで!?」と色々な感情が湧いてきました。
食事会では、「親は心配していませんか?」「体調を崩した時はどうしていますか?」「危険な思いをしたことはありませんか?」「食べ物は・・・」など、母が子を想う気持ちで質問し、全て笑顔で答えていただけました。

様々な話をお聞きする中で、難民の方々に刺繍を伝えることはもちろん、素敵な商品を仕上げるため、大変厳しい現実やご苦労も数多くあることもわかりました。
しかし、芽衣さんはとても前向きで、ヨルダンの生活を楽しく過ごされているように思いました。
「難民の方々が仕事を続けていけるよう」「難民の方々が自分で働いたお金で、自分の子供にお菓子を買ってあげられるよう」取り組む芽衣さんの言葉の中には、優しさが詰まっていました。
そして、こんな芽衣さんの笑顔が難民の女性の方々を笑顔に変えていくのだと感じました。
私もいつか芽衣さんを訪ねて、ヨルダンに行こうと思います。

保護者会「フェリーチェママ」より

〜「第1回 市邨高等学校難民支援の夕べ」実施〜

「芽衣さん交流会」実施後、実行委員は名古屋駅前の会場へ移動し、各自準備に入りました。

そして、定刻通りにスタートしました。

こちらも、会の後半で、林芽衣さんの質問会とチャリティーバザーを実施しました。

市邨高校 難民支援 UNHCR

参加された方々から多くの質問が出され、関心を持っていただけたことを実感しました。

最終的な来場者数は、県外の方々を含め、64名となりました。

~「難民について考える」活動から学んだこと(実行委員会のメンバーより)~

現代社会の授業での学びが、文化祭に繋がりました。

そして、みんなの思いが、今回の「第1回市邨高等学校難民支援の夕べ」という形になりました。

この難民支援の活動で、今までにない思い出を作ることができ、大切なことを2つ学びました。
1つ目は、経済的自立を実現するための支援がとても大切であるということです。

中東ヨルダンで、シリア難民の方々の経済的・職業的なサポートを提供されているデザイナーの林芽衣さんから、直接お話を伺うことができました。

その中で、経済的自立が人の尊厳につながると強く感じました。
「働く」ことからは、お金を得られるだけでなく、「生きがい」を得ることができます。

林芽衣さんは、難民の方々に、働くことから「生きがい」や「喜び」を感じてもらえるよう、心がけておられました。

戦争で自分の国を離れなければならなかった難民の方々は、現在も辛い思いをされています。

林芽衣さんは、そんな難民の方々と一緒に働き、社会に求められる商品を企画・製作し、販売するという「労働」を通して、難民の方々に、「幸せ」になってもらいたいという願いを持っておられました。

今の高校生の僕たちにできる支援は、募金することだけではなく、僕たちが難民の人々のことをもっと知り、このような経済的自立支援の活動を知ってもらう支援もあると感じました。2つ目は、仲間と助け合い協力しあうことが、とても大切であることです。
今回の活動は、実行委員のメンバーみんなが考え、助け合い、1人1人が可能な限り尽力しました。

市邨高校 難民支援 UNHCR

しかし、僕自身は会場責任者として、仕事を抱え込み、キャパオーバーになって悩むことがありました。

そんな自分を見た実行委員の仲間は、何も言わず、黙って僕に手を差し伸べてくれました。

僕はその時、仲間に相談しなかったことを恥ずかしく思いました。

仲間に相談し、仲間と協力して解決していかなければならないことを学びました。

今後も難民支援活動を継続し、多くの人々に難民の方々のことを知ってもらうためには、僕たち自身が助け合って協力し、これからも、知り、考えていかないといけないと思います。このように、今回の難民支援活動を通して、大切なことを学びました。

そして、難民支援活動に取り組めたことと、こんな仲間達のことを、僕はとても誇らしく思います。

実行委員会 会場責任者 圡方孝太

〜「自己有用感」とさらなる「深い学び」へ〜

難民支援の夕べ終了後、実行委員会の生徒を中心にAIによる匿名の意見集約ソフトを使ってアンケートを実施しました。

使われた言語を可視化すると、以下の通りとなりました。

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市邨高校 難民支援 UNHCR

「少し」という言語

 

「少しでも多くの人に難民について知ってもらえた」
「少しでも難民の方のためにできたら」
「少しでも難民や芽衣さんを助けたい」
「少しでも難民の方々のためになっていれば」
「少しだけど難民支援に協力できた」
「少しでも難民ボランティアに参加できた」
「少しですが難民支援ボランティアに協力できた」

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「嬉しい」という言語

 

「買いに来てくれてその様子を見て、とても嬉しかった」

「たくさんの人に難民の状況を知ってもらえて嬉しかった」

「思っていたよりお客さんがきてくださって嬉しかった」

「たくさんの人に難民について知ってもらえて嬉しかった」

「芽衣さんとお話ができて嬉しかった」

「嬉しい気持ちでいっぱい」

「有志で難民支援を実施して、嬉しかったし楽しかった」

「自分の得意なことで支援することができて嬉しかった」

「力になれたか心配ですが、なれているのならとても嬉しい」

「良かったよ!と言ってもらえて本当に嬉しかった」

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上記の内容から、ボランティアによる実行委員メンバーは運営が大変であったことが予想できますが、肯定的な感想が多い結果となりました。

「今後の難民支援活動について」のアンケートでも同様の結果となりました。

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「もっと」という言語

市邨高校 難民支援 UNHCR

「難民についてもっと知るべき」
「もっとたくさんの人に難民の状況を知ってもらいたい」
「もっとたくさんの人に参加してもらいたい」
「もっと行動に移して具体的に支援したい」
「もっと知ってもらう」
「もっと多くの人に知ってもらえるよう努力したい」
「もっと早く計画し、知ってもらえるよう取り組みたい」
「もっといろんな方に難民のことを知ってもらいたい」
「もっと若い世代が参加してくれるよう取り組みたい」

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今回の難民支援の活動は、当初、文化祭での取り組みとして終わる予定でした。

しかし、生徒が自ら調べて知った難民の置かれた現実や、外務省岡本医務官、国連UNHCR協会の天沼さん、デザイナーの林さんの情報提供より、今回の計画へと繋がりました。

活動の取り組みの中で随時、iPad・AIを使った匿名の意見集約を行いました。

このことで、容易に他者の多様な意見を知り、自分の意見を熟孝することができました。

そして、アンケート結果から、難民支援活動を通して「自己有用感」を高めることができたことがわかりました。

そして、「もっと何かしたい」と未来に向かって自ら考えることに繋がりました。
これからも、国連UNHCR協会やその他専門機関と、情報を共有・連携することで、難民の方々のリアルタイムの現状を知り、生徒が主体的に考え、対話的に学び、様々な知識を関連させて考えていくことは、難民の方々へのサポートへとつなげるだけではなく、生徒の「深い学び」を実現することにも繋がります。

そして、教師は、生徒が学びを深めていくための「問いかけ」を模索することや、「生徒の声」を大事にしてその思いを活動につなげる援助をすることの大切さを学びました。
最後に、「第1回 市邨高等学校難民支援の夕べ」の実施におきまして、愛知県教育委員会、独立行政法人国際協力機構、国連UNHCR協会、毎日教育総合研究所(敬称略・順不同)からご後援をいただけたことにお礼を申し上げます。

また、国連UNHCR協会の天沼さんには、具体的な実施・運営におけるアドバイスなどいただけましたことを、改めまして心よりお礼を申し上げます。

今後も、生徒とともに考え、対話をする中で継続していきたいと思います。

おわりに

継続的に学びを深めるなかで、生徒の皆さんにより一層の自主性が生まれ、初めてのイベントで大きな成功を収められました。

そしてこの市邨高等学校の活動は、さらなる学びを探求し、より大きな難民支援の輪を創るため、さらに続いていくとのことです。

今後のさらなる展開についても、本ウェブサイトに掲載してまいります。

 

最後になりましたが、当協会の活動・資料を授業等に活用して難民支援のイベントを行われただけでなく、お忙しいなか、難民支援の輪を広げるために本記事作成にご協力いただきました松野先生と皆様方に心より御礼申し上げます。

 

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