ロヒンギャ危機の最前線で救急の心の健康支援

ミャンマーから逃げる多くの難民は想像を絶する恐怖を味わっています

公開日 : 2017-11-20

クトゥパロン難民キャンプ(バングラデシュ)2017年10月26日 ― 満員の漁船が嵐で大破した時、ヌルス・サラムは一人息子を抱いたまま海へ放り出されました。
 
息子をありったけの力で抱きましたが、波が来て力が緩んでしまいました。突然、アブドゥル(2歳)はいなくなってしまいました。
 
「目を閉じると息子がパパ、パパと泣き叫ぶ声が聞こえます」と彼は小声で言います。
 
ヌルス(22歳)はバングラデシュ沖で2017年9月26日に起きた難破の生存者27人の1人です。この事故で少なくとも23人が死亡しましたが、正確な数字は未だに分かりません。
 
ヌルスは妻のサンジダ(18歳)も難破で亡くしました。彼はUNHCRの心理士が難民キャンプ内の教室で主催するサポートセッションで体験を話しています。臨時の宿泊施設としても使われているピーコック小学校の教室に生存者20人が集まっています。
 
床で胡座をかきながら、ラシーダ・ベーガム(23歳)はセラピストのマームダに激しい波の中で7か月の娘が腕からすり抜けてしまったことを話します。
 
これがロヒンギャ危機最前線における救急の心の健康支援です。この危機は人災で、想像を絶する苦しみを産み出しました。

ロヒンギャの難破船生存者と話すマームダ。彼らはコックスバザール(バングラデシュ)近くのイナニビーチでボートが転覆したことで、親戚を亡くしている

アブダル・ラシッド(16歳)は父親がミャンマーで銃殺されたと語ります。母親は船が座礁した際に溺死しました。そして、生き延びた四兄弟の長男として、彼が新たな大黒柱となりました。
 
「兄弟をどうにか育てなくてはいけません。他には誰もいませんから」と、彼はマームダに優しい声で言います。「寝ようとすると、その重荷を感じます。」
 
教育心理学者であり5年の訓練を経たカウンセラーでもあるマームダは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を専門とする心理療法家でもあります。
 
彼女はバングラデシュにある二か所の国営難民キャンプであるクトゥパロンとナヤパラと数十万人が暮らす竹とビニールでできた掘建小屋が並ぶ広大な出来たての町における唯一のUNHCR所属の心理士です。パートナー団体のもとで活動している心理士はあと5人いますが、精神科医はいません。
 
2017年10月21日の難破以降、彼女は27人の生存者全員とのグループセッション、生き延びて浜まで到着した14人の男性、女性、子どもと1対1のセラピーを行いました。
 
悲劇的なことに、現在も進行中の暴力は50万人以上を想像を絶する状況へ追い立てました。彼らの苦しみは氷山の一角に過ぎません。
 
「どの難民も多くのトラウマ体験をしています」とマームダは言います。「3日も4日も歩いたり、ボートで来たり…。虐殺も銃殺も拷問も性暴力も見ています。全てを見て来たのです。」

「虐殺も銃殺も拷問も性暴力もみています」
コックスバザール近く、イナニビーチでの転覆で親戚を亡くしたロヒンギャの生存者がクトゥパロン難民キャンプ(バングラデシュ)でカウンセリングを受けている

優しく落ち着いた、しっかりとした声で、マームダは難破生存者向けのグループセッション2回目を始めました。彼女は安心させる言葉をはっきりと言います。「あなた方は生きています」「ここは安全で、あなたたちは一人ではありません。私たちがついています。」彼らはじっと耳を傾けます。
 
心の健康に関する調査は難民が驚くほどの回復力を持つことを明らかにしています。多くは移動や喪失に対し深刻なストレスや悲嘆を示します。その中には5人に1人以下の割合で軽度なPTSDなどの精神障害を発症する人もいます。割合は小さいですが、双極性うつ病や精神病といった深刻な病を発症する人もいます。
 
マームダには時間は言うまでもなく、非常に限られたリソースしかありません。ダッカにいる精神科医が一番近く、彼女ができるのはキャンプにいる医師への紹介状を書くことのみです。その医師も集中講義を受けたぐらいしか精神科の経験はありません。キャンプ内の保健や社会的ケアのネットワークを紹介する場合にもある程度の選択肢しかありません。
 
驚いたことに、難破生存者が経験している激しい苦痛とマームダの手元にある最低限のリソースにも関わらず、彼らが進むべき道を見つけている兆しはあります。
 
マームダは救助された人々に、今は安全であり、前に進む強さを見つける必要があると安心させるように言います。
 
意外なことに、ラシーダは赤ちゃんを失ったことを受け入れつつあります。「こういう運命なのかもしれない」とマームダに言います。
 
「ミャンマーにいたら、あの子は軍に殺されていたかもしれないし、誰かに虐殺されたかもしれない。そうやって自分を慰めています。あの子を亡くしてしまったけれど、私は生きていかなければなりません。」
 
両親を失ったことよりも、8、9、12歳の弟を育てる責任が重くのしかかっているとアブダル・ラシッドは言います。彼はマームダが説明する支援情報に熱心に耳を傾けます。
 
彼女は子ども向けのスペースがキャンプ内にあることを教えました。そこでは弟たちが絵を描いたり、ボール遊びをしたり、おもちゃを作ったりして少しでも子どもらしく過ごせます。彼女はキャンプの他のパートナー団体の間でも彼への追加支援を探しています。

「精神的に安定し、尊厳を持って生きる権利は皆にあります。しかし、私たちができることは限られています」

マームダも想像もつかないような精神的な苦しみを対処しており、訓練時代の経験を手掛かりとして仕事に臨んでいます。彼女は自分が背負っている負担を考え、この状況に折り合いを付けられているということは、共感性を失っていることなのではないかと心配しています。
 
「家に帰ると、深呼吸をして、自分を解放してリラックスさせるエクササイズをします。あのような話を聴いた後に、静かに落ち着くことはとても難しいですから」と彼女は言います。
 
1か月足らずで15人に増えたグループの支援に何が必要か尋ねると、彼女の答えははっきりしていました。少なくとも1人の精神科医、2人の児童心理士とキャンプの医療スタッフがロヒンギャ難民に最低限の心の健康支援をできるようにするトレーニングです。
 
「精神的に安定し、尊厳を持って生きる権利は皆にあります。しかし、私たちができることは限られていて、全員を支援することは難しいです。」
 
「私たちは全力を尽くしています」と彼女は言います。彼女の落ち着いた佇まいと気品は先の見えない悲劇の中で救いを求める人々に、きっと大きな安心を与えていることでしょう。「支援の手を差し伸べて下さる方がいれば、歓迎します。」
 
バングラデシュにいる難民を助けるために、あなたの支援がすぐに必要です。今すぐにお願いします。

Tim Gaynor
 
原文はこちら(英文)
Mental health first aid on the frontlines of the Rohingya crisis

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