海外の難民支援の現場より
公開日 : 2016-08-02
ヨーロッパを目指したある難民の旅の記録「Field of Vision - Notes from the Border」

危険な海を渡って一路ヨーロッパを目指す難民の旅を記録した、約10分間のドキュメンタリー「Field of Vision ? Notes from the Border」。Nと名乗る難民の語りとともに進む映像は、全編を通して目線の高さで撮影されており、見る人はあたかも自分自身がそこにいるような錯覚を覚えます。言葉少なに語られる旅の描写と、波の音や列車を待つ人たちの喧騒、警察の声といったさまざまな環境音も過酷な旅の雰囲気を伝えています。昨年のちょうど今頃、多くの難民が置かれていた状況を追体験できる貴重なショートフィルムは必見です。
Field of Vision - Notes from the Border (YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=H0kzzm9ImrU
難民の声を聴く

ニューヨーカーの絶妙な表情を切り取り、それぞれの人生が垣間見える短いストーリーとともに紹介しているウェブサイト「Humans of New York」。その仕掛け人として一躍有名になったフォトグラファー兼ブロガーのブランドン・スタントンは、2015年9月にギリシャやハンガリー、クロアチア、オーストリアに渡った時に言葉を交わした難民のストーリーをウェブ上で紹介しています。
たまたま紛争のない国に生まれ、難民問題をあまり身近に感じることのなかった私たちにとって、ここで語られている癒え難い心の傷や恐怖に満ちた経験は、同じ世界で起きているリアルな現実として迫ってきます。シンプルな英語で書かれていて読みやすいので、ぜひご一読いただき、紛争や迫害に巻き込まれた一人ひとりの人生に想いを馳せてみてはいかがでしょう。
【スウェーデン】一緒に食事をすることから、相互理解がはじまる

母国を離れて異国に暮らす移民や難民が、いかにその国に溶け込んでいくことができるか、という問題にユニークな方法でアプローチしたプロジェクト「United Invitations」は、スウェーデン語教師だったエバのアイデアから生まれました。外国人である生徒たちにたびたび食事に招待されることがあったエバは、彼らがスウェーデンに住み、新しい言葉を学びながらも、その国の人との付き合いはあまりなく、社会からはほとんど隔絶された環境で生活しているということに気づきました。その後彼女は、スウェーデン人と移民や難民がお互いを知るために相手を招待し、ともに食事をする機会をアレンジしていくプロジェクトを発足。評判はメディアを通じて拡散され、この動きは全国に広がりました。スイスでも一般人が難民を食事に招待するというプロジェクトがスタートするなど、いまこのアイデアはヨーロッパ全土に広がっています。
【オランダ】アートで考える難民問題

2014年某日にアムステルダムの運河や駅、公園やバス停、道路やショッピングモールに突如現れた10種類・数千体のミニチュアの人間。このプロジェクト「Moving People」では、ユニークなのにどこか哀愁の漂う佇まいのミニチュアの人形と同じポーズをとって写真を撮ってSNSでシェアする人が続出し、瞬く間に話題になりました。ミニチュアになっている10人は過去に難民となって他国に逃れたバックグラウンドを持つ人たちであり、同プロジェクトのウェブサイトでは10人のそれぞれのストーリーを紹介しています。
Power of Art Houseというアート系シンクタンクによるこの試みは、紛争や迫害などの理由で母国から逃れなければならなかった人たちのことを、街でミニチュアに出会ったことをきっかけに考えてもらうことを目的としたものです。政治的なメッセージではなくアートの力で難民問題にアプローチしているこのプロジェクトは、現在世界中に広まっており、10人のミニチュアはヨーロッパ各都市やアメリカ、カナダや中国にも出現。いつか日本の街でお目にかかれる日も来るかもしれません。
※10人のストーリーが気になる方はこちらのウェブサイトをチェック(英語サイト)
http://www.movingpeople.nu/over-het-project/?lang=en
【ドイツ】難民受入国の取り組み 相互理解を試みるドイツの教育現場

昨年からヨーロッパでもとりわけ多くの難民を受け入れているドイツでは、現在学校教育の場で、難民問題に関連したテーマを頻繁に扱っています。授業内で同問題をさまざまな角度から取り上げるほか、ウェブ上には就学年齢に達した子ども達がその習熟度に合わせて同問題を学ぶことができるよう、いろいろな教材が用意されています。たとえば、同じくらいの年齢の子ども達がドイツにたどり着くまでに経験したことを追体験できるようなゲーム形式のものなどもあり、難民問題を興味を持ちながら学べるものなどもあります。これらの取り組みに共通してみられるのは、難民に一方的にドイツ社会への同化を強いるのではなく、双方向の理解をすすめ、ともに共生していく道を探るという試みです。
また難民にとっても、「言葉も文化も異なるドイツ社会で、どうドイツ人と共生していくか」ということは、 彼らがその身もって日々直面しているテーマです。難民や移民がドイツ語を習得する際にも、「新しい社会における共生」はディベートのテーマとして取り上げられることが多くあります。彼らは、新しく学んだ言葉で、その決意に似た思いを言葉にするのではないでしょうか。また、他人と意見を交わすことで、その新たなヒントを得ることもあるでしょう。
現在、難民の受け入れ数に上限を設けるという議論も活発に起きているドイツ。その一方で、この国が今日まで多くの難民をすでに受け入れてきたことは事実であり、そして、共生の道はすでにドイツ人と難民、両方の側から模索されはじめているのです。