ゆれるシリア難民の気持ち ~第三国定住プログラムの行方~
公開日 : 2016-05-20
5年という時間がもたらした気持ちの変化

5年という時間と、いまだ終わりの見えない紛争は、母国の戦火を逃れその隣国に身をよせているシリア難民の気持ちにも大きな変化をもたらしました。難民が各国の協力を得て避難先から安心して暮らせる国に再定住し、生活の再建を目指す「第三国定住プログラム」に対するシリア難民の関心の高さは、その変化を如実に表しています。紛争開始当初は限られたごく一部の人しか興味を持っていなかったといわれる同プログラムですが、現在はシリア難民の多くが関心を持っているといいます。
3月某日に私たちが訪れたUNHCRのヨルダン事務所に併設されている難民の抱える問題に対処するコールセンターでも、ヨルダンに住む難民の第三国定住プログラムへの関心の高まりを垣間見ることができました。日々さまざまな質問が寄せられるなか、私たちが訪問した日は、午後の時点で「第三国定住」に関する問い合わせが700件をはるかに越え、その数は他を圧倒していました。

「シリアに平和が戻るなら、戻りたい。でも…」。ヨルダン滞在中に出会ったあるシリア難民はこう言いました。彼らの心のなかでは、つのる郷愁の念とは裏腹に、平和に暮らせる土地で人間らしい普通の生活を送ることへの気持ちが日に日に強くなっているのかもしれません。
「三国定住プログラム」成功の鍵とは

「“難民が定住先で受け入れられていると感じられるかどうか”ということが、第三国定住プログラムの成功の鍵になります」。今回のヨルダンミッションで第三国定住に関するお話を伺ったUNHCR中東・北アフリカ局ヨルダン事務所の日本人職員の中柴さんは言います。またそのために重要なのは、受け入れ各国の決意とさらなる協力だといいます。世界各国の協力を得て推進される第三国定住プログラムですが、安全な受け入れ国に難民が辿り着くことがプログラムの成功を意味するわけではないからです。
私たちが今回のミッションで出会った子どもたちのなかには、やがて第三国へと旅立つ人たちもいるのかもしれません。彼らが新しい国でその手を差し出した時に、温かく包み込んでくれるような大きな手がそこにあることを、心から祈っています。
― 2016年5月20日
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