「私たちは見捨てない」 シリア難民のために立ち上がったギリシャ島民

公開日 : 2016-10-24

(写真)「ヘレニック・レスキュー・チーム」の海難救助訓練

あなたならどうするでしょうか。
自分の住む町に、紛争を逃れた難民が海を渡り続々と到着している。半数以上が女性や小さな子どもで、衰弱してすぐにも助けを必要としている。それどころか、海岸にたどり着く前に多くの人が亡くなっている―。

2015年、人口の5倍以上となる約50万人の難民が流入したギリシャ・レスボス島では、難民の苦しむ姿を目の当たりにした多くの市民が立ち上がり、行動を起こしました。

海上で難民を救助「ヘレニック・レスキュー・チーム」

エーゲ海で救護活動を行うギリシャの団体「ヘレニック・レスキュー・チーム」(HRT:ギリシャ救助隊)の代表、コンスタンティノス・ミトラガスもその一人です。
HRTは2015年、1,000回以上の救護活動により約2,500人の命を救い、約7,000人の難民が避難場所にたどり着けるようサポートしました。
(写真)海上で活動にあたるコンスタンティノスとボランティアの人々。HRTは数週間に渡る救助訓練を実施し、ボランティアの養成を行っている。2015年は一日24時間の支援体制をとった

彼は貿易に携わるビジネスマンですが、ボランティアとして海上で救助活動にあたり、訓練から広報にいたるまで指揮を執っています。「心の中の何かに突き動かされて、ボランティアをしようと考えたのです。もちろん私たちは何度も恐ろしい思いをしています。だからこそ生きていられるのです。怖いという気持ちがないなら、人間ではありません。」

同じくHRTのボランティアで、製薬会社で働く一児の母・アンティゴニは言います。「2015年、私たちは本当に多くの遺体の収容に追われました。夫は活動中の11月、赤ちゃんの遺体を発見しましたが、家に帰ると毎日、生後9か月の私たちの娘を何時間でも抱き続けていました。夫は娘を片時も離したくないかのようでした。」

行き場のない難民を支援する「PIKPA村(ピクパ村)」

(写真)ピクパ村で肉やチーズ、牛乳、油、野菜、日用品などを難民に配布するボランティアの人々。2015年には一日に600人もの難民を受け入れ、毎日2000食分の食糧を準備した

市民の活動は海の上だけではありません。
エフィ・ラトソウディは支援団体「ピクパ村」を設立した一人で、 2012年からシリア難民の子どもや妊婦、障がい者など弱い立場の人々に住む場所を提供し、食糧の支給やギリシャ語教室、職業訓練など様々な支援を行っています。


(写真)ピクパ村で支援を受けるシリア難民のヒンドと娘のマリア。夫と他の5人の子どもたちと生き別れてから2年が経つ。「ここにいると幸せです。人々はとても親切で、私が病気の時には夜でも来てくれますし、食糧もあります。シリアでは、子どもたちに与える食べ物すらない時もあったのです」

(写真)レスボス島を見渡す丘の墓地の一角に、難民が葬られている。数字が書かれた小さな板だけが墓標だ

エフィは海上で亡くなった難民の葬儀も行ってきました。イスラム教徒の葬儀方法を尊重し、心をこめて多くの人を弔ってきたのです。「2015年の6月~8月には毎日お葬式をし、そのたびにこれが最後だと思ってきました。自分と自分の子どもの命を守るために逃れ、避難途中の海で命を落とす ― こんな非人道的なことは、今すぐ止めなければいけません。」

2016年ナンセン難民賞を受賞

(写真)スイス・ジュネーブでのナンセン難民賞授賞式に出席したグランディ国連難民高等弁務官、コンスタンティノスとエフィ

UNHCRは、エフィ・ラトソウディとHRTの活動を称え、2016年のナンセン難民賞*を贈りました。フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は、彼らの活動へ敬意を表して言います。「自国の浜辺で起きている悲劇的な状況を目の当たりにし、ただ傍観することを拒否した彼らはまさにナンセン難民賞に値します。」
そして、受賞した彼らだけではありません。難民のためにボランティアで支援活動に取り組む世界中の市民と、UNHCRは今日に至るまで力を合わせて活動してきたのです。

* 1954年に創設された、難民支援活動に貢献した個人や団体に贈られる賞。2006年には国連UNHCR協会の理事であるオプトメトリスト・金井昭雄が受賞しています。

難民問題は複雑で政治的な問題を抱えており、一般市民が取り組むことは難しいようにも思えます。しかしレスボス島では、多くの市民が立ち上がって行動を起こすことで、数千人もの難民が命を救われ、新しい生活へ踏み出すことができました。
難民のために、一人ひとりができることがある ―。彼らの行動は、私たちに大切なことを教えてくれています。


こうしている今も、地中海を渡り、危険な旅を強いられている難民がいます

難民がもう一度笑顔で暮らせる日まで、私たちの活動に力をお貸しください。

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