国連難民親善アーティスト 吉田都さん×川井郁子さん 対談
参加者と一体になり、感謝と希望のなかで踊り演奏できるチャリティ活動は、舞踏や音楽の原点に触れる貴重な機会
公開日 : 2013-06-14

国連UNHCR協会の国連難民親善アーティストである吉田都さんと川井郁子さんをお迎えして、仕事について、難民支援についてお二人にお話を伺いました。ニュースレター「With You」29号(2013年6月発行)でご紹介した対談の拡大です。
極度の緊張を求められる厳しいプロの世界で活躍されるお二人ですが、参加者と一体になり、感謝と希望のなかで踊り演奏できるチャリティ活動は、舞踏や音楽の原点に触れることができる貴重な機会でもあり、元気を与えられるのは、むしろお二人の方だと言います。
事務局長檜森隆伸:国連UNHCR協会を通じて難民支援をしてくださる方の輪がどんどん広がっています。これからも、さらに多くの方に支援の輪に加わっていただきたいと思っています。吉田さんが暮らしていたイギリスでは、チャリティ活動の様子はいかがでしたか。
吉田さん:難民支援の輪が広がっていること、心強いことですね。イギリスではチャリティはごく普通のこととして根付いています。皆さん自然に、熱心に国内外の援助活動にかかわっています。特別なことをしているという感じはしないですね。私がイギリスに渡って初めの頃にいただいた役は、笑顔もみせずにひたすら募金活動をする救世軍の役でした。2011年3月11日の東日本大震災のときも、私はロンドンにいましたが、たくさんの人がすぐに支援に参加していました。私自身を振り返って、世界で何か起こった時にすぐに行動できていたかなと考えてしまいました。
檜森:川井さんは2007年にタイの難民キャンプを、そして2008年にはウガンダの難民居住地を訪問し、バイオリンを演奏されておりますが、印象に残っていることはありますか。
川井さん:たくさんあります。行く前は、勝手な思い込みで難民キャンプには元気をなくした子どもたちがいるというイメージだったのですが、実際は全く逆で、びっくりするほど元気いっぱいの子どもたちがたくさんいました。バイオリンの音色に素直にときめいて、演奏への食いつきが想像と全然違うんですね。子どもたちからプレゼントされた絵には、両親と一緒に故郷へ帰るんだとか、アメリカに渡って勉強するんだとか、誰かから与えられたものではない自分たちの目標が描かれていました。自分より小さな子をおんぶして演奏を聴き入っている子どももいて、頼もしさを感じました。伴奏がないとバイオリンの演奏はなかなか成立しないのですが、バイオリン1本でこんなに喜んでもらえるんだ、音だけでこんなに人の気持ちに届くんだということを教えてもらいました。
吉田さん:すばらしいですね。イギリスは批評家も観客の皆さんもすごく辛口なので、バレエの世界も厳しいのですが、学校や病院へ出かけて行って踊ると、本当に喜んでもらえます。わー私って踊っていて良いんだ、なんてうれしくなります。「ありがとうございます」とお礼を言ってくださいますが、私のほうこそ「ありがとうございます」という気持ちでいっぱいになります。

檜森:批評家も観客も辛口なんですね。お二人とも。とても強い精神力を持っていらっしゃる印象を受けます。
川井さん:日々孤独と恐怖と戦って、スランプもたくさんあり、舞台に立つことがとても怖かった時期もありました。自分のアルバムを出すまでは、ずっと、舞台に向かない人間だと思っていました。今は一番楽しい場所でもあります。
吉田さん:川井さんのおっしゃること、すごくわかります。日によって考えただけで気分が悪くなってしまうときもあります。若いときはなにもわからなくて、楽しく舞台にばっと出てしまうのですが、段々といろんなことが難しくなってきて、怖くなってしまうことがあります。いまだにすごく緊張します。でも強くないとお客様の前に出ていけないですから鍛えるしかありません。最終的には自分しか頼れないですからね。
檜森:川井さんと吉田さんがそれぞれバイオリンとバレエを始めたきっかけはなんでしたか。
川井さん:私は6歳の時ラジオから流れてきたバイオリンを聴いて、胸がときめいたんです。半年間親にバイオリンがやりたいとお願いしてやっと買ってもらえました。その時手にしたバイオリンは神々しかったですね。その時のときめきを、難民キャンプで出会った子どもたちの目は思い出させてくれました。アフリカでは木の下で演奏したのですが、300人以上が聴きに来てくれて、皆さんだんだん前へ迫ってきて、とうとう踊りだしました。
吉田さん:私は幼稚園のとき友達がバレエをやっていて、親は放っておけばそのうち忘れると思っていたらしいですよ。バレエのワークショップをすると、参加する子どもたちが意外と無表情で、この子たち本当にバレエが好きなのかなと思うときもあるのですが、手紙などをもらうと、本当はいろんなことを考えたり想ったりし想ったりしているんだと知らされます。子どもたちは、周りの状況を気にしたり、遠慮したりして、気持ちをストレートに出せないのですね。
川井さん:日本では東日本大震災以後、お客様の反応が違ってきました。チャリティコンサートでは、客席と私の気持ちがひとつになります。
吉田さん:国連UNHCR協会を通じて支援されている皆様の声の中に、支援の機会を与えられたことに感謝しているというメッセージがあり、印象的でした。これまで、気持ちがあっても機会が無くて支援に参加できなかった方も多いのかなと思いました。機会があれば難民支援の輪に加わりたいと思っている人は少なくないと思います。私も、できる限り支援の輪が広がるように応援させていただきます。
川井さん:私たちにとって当たり前のことが何ひとつそろっていない難民キャンプで、子どもたちに一番大切なのは安心感だと思うんです。安全な環境を用意し維持し続けるには大変な資金がいると思います。微力ですが、支援の輪を広げるためにこれからもお役にたちたいと思います。
檜森:難民支援活動は、誰かがどこか遠くでやっている活動ではありません。現場での活動も、日本からの支援も場所は異なりますが、同じ支援活動です。日本からの難民支援がさらに広がるよう、一人でも多くの人の支援ニーズが満たせるように尽力していきます。
吉田都(よしだ みやこ)さん プロフィール
バレリーナ
国連難民親善アーティスト
英国ロイヤルバレエ団在籍時に、さまざまなチャリティ公演や学校、病院を訪れて踊る活動に参加。(財)スターダンサーズ・バレエ団理事長であった故・太刀川瑠璃子さんの呼びかけで難民支援のチャリティ公演に参加
川井郁子(かわい いくこ)さん プロフィール
ヴァイオリニスト・作曲家
国連難民親善アーティスト
「川井郁子Mother Hand基金」を通じて、難民の子どもたちを支援するためのチャリティー活動を行っている。2007年タイの難民キャンプ、2008年ウガンダの難民居住地を訪問