新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が続く中、支援を必要とする難民が急増する一方、UNHCRの慢性的な資金不足は深刻化し、いくつもの援助活動が縮小や中止に追い込まれています。パンデミックによる外出制限、貧困の拡大といった影響で人々がさらなる苦境に追い込まれている中、これ以上必要不可欠な支援を届けられなくなることは、何としてでも避けなければなりません。
コロナ禍が始まった2020年から、とりわけ資金不足に直面している難民危機と、各国で縮小または中止を余儀なくされた支援プログラムについてお伝えします。
小さな部屋でひしめき合うようにして順番を待つ人々、
最低限の設備しかない医療施設。
ここに新型コロナウイルスが到達する最悪の事態を想像することがあります。
そこで起きうることこそ、資金不足がもたらす現実です。
コロナ禍で加速する、6つの難民危機
1. イラク

長期にわたる戦争や宗教対立、内戦。近年では過激派組織の台頭、同組織によるイラク第二の都市モスルの支配、同都市奪還のための戦闘で多くの犠牲と避難民を生み出しました。国を建て直す努力の一方、状況は容易には改善せず、新型コロナによる経済への影響も甚大です。122万人以上の国内避難民の帰還はままならず、支援はまさに生命線です。

医療支援の縮小がコロナ禍にあるイラク難民の健康を脅かす
エジプトでは資金不足により、コロナ禍でただでさえ苦しい立場にある人々が基本的な医療さえ受けられない事態に発展。イラク難民の医療・保健支援が縮小を迫られ、医療は緊急のケースに限られるようになりました。同国では一部の教育支援も削減され、親たちは自力で教育費を工面しなければならない苦境にも追い込まれています。このような状況は、子どもから教育の機会を奪うだけでなく、児童労働や児童婚をはじめ、子どもたちの直面するリスクを急増させる恐れもあります。
「ほかの少女たちのように学校に通い、私も学び続けたいのです。」

モスルの戦闘を生き抜いた16歳のミラードさんは、狙撃され片足を失いました。ショックで泣いていたというミラードさんは言います。「こんなふうに留まっていたくありません。ほかの少女たちのように学校に通い、私も学び続けたいのです。医者になるという自分の夢を実現し、母を助けたい」。学ぶことは、未来への希望そのもの。避難先や帰還した故郷で学び続けられる環境づくりは、今日の糧と同じくらい、今必要な支援です。
2.アフガニスタン

1979年のソ連侵攻以来、アフガニスタンでは戦闘やテロが絶えず、多くの民間人が犠牲になりました。これほどまでに紛争が長期化し、シリアに次いで世界で2番目に多い260万人の難民を生み出しながらも、国際社会からは置き去りにされたままです。干ばつにより食料不足も深刻化し、2019年は新たに約40万人が国内で避難しました。

約78万人のアフガン難民を受け入れるイランで学校の建設が激減
アフガン難民を受け入れているイランでは、資金不足により学校の建設支援の数が激減。同国では、2015年からすべてのアフガニスタン人の子どもが公立の学校で教育を受けられるようになりましたが、このままでは学びのスペースが足りず、子どもたちは避難先で教育の機会を失う危機に直面しています。
3. ベネズエラ

ベネズエラでは、政情不安や経済破綻が医療システムや正常な生活の崩壊につながり、国外に約563万人が流出する事態に。近年の南米で最大規模のこの強制移動に際し、UNHCRは国境地帯で逃れてきた人々の命を守る活動や必要不可欠なサービスの提供、受け入れ地域と共存していくサポートなど多岐にわたる支援を実施しています。

ベネズエラから逃れてきた子どもたちの保護スペースの支援が継続不可能に
ベネズエラから逃れてきた人々が通過する主要な国境地点コロンビアのククタでは、避難してきた子どもたちの保護スペースが重要な役割を担っています。しかし、UNHCRの活動資金不足によりこの支援の継続ができなくなり、混み合った国境地点で子どもたちが直面するリスクの増大が懸念されます。
「ママ、小麦粉もお米もない」と、子どもたちは遊ぶのをやめて心配していました
イザベルさんが母国ベネズエラを去る決心をした時、3歳の子どもの体重は7キロしかなく、栄養不良に陥っていました。6月頃から極寒の冬を迎える南半球。日々何十キロも進む避難は過酷で、冷え込みは想像以上だったといいます。「山で人々は、子どもにもっと服を着せるように、と教えてくれました。そこは小さな子どもたちが命を落とした場所だったからです。」
話すことすらできず、空腹でどこにいるのかもわからないほど憔悴している人も多く、緊張を和らげ安心して夜を明かせるシェルターは必要不可欠な支援です。
4. コンゴ民主共和国

政治の腐敗、周辺国との戦争や度重なる紛争によって、貧困と治安の悪化が慢性化。長年多くの犠牲を生み出してきたのは過去の話ではなく、現在も凄惨な暴行や殺人が起き、市民の日常や人権が踏みにじられています。2020年上半期、国内で避難した人の数は世界最多を記録。今も国内で520万人、国外で94万人以上が避難生活を送っています。

コンゴ民主共和国からの難民が直面する公衆衛生の危機
タンザニアでは、コンゴ民主共和国からの難民の25%の世帯が、計画していた家族専用トイレの支援を受けることができなくなり、3つの難民キャンプでリスクの高い共同トイレや壊れているトイレの閉鎖が遅延。コロナ禍の続く今、このような公衆衛生上の問題を抱えた環境で暮らす難民の方々の健康は、簡単に脅やかされてしまう可能性があります。
5. 南スーダン

「世界で一番新しい国」。長い紛争の末2011年に独立し、希望に満ちた船出にそう呼ばれた南スーダン。しかし、2013年に再び内戦状態になり、アフリカ最大規模の難民危機に発展。新型コロナによる国境閉鎖や移動制限にもかかわらず、逃れる人は途絶えることがなく、周辺国に225万人以上、国内でも161万人以上が避難しています。

92万人以上の南スーダン難民を受け入れるウガンダで医療環境が危機的状況に
2020年、UNHCRは南スーダン難民を受け入れるウガンダのすべての難民居住地で、医療スタッフの数の削減を余儀なくされました。医療の質の低下、ケアが行きわたらなくなる懸念に加え、残されたスタッフの負担は場所によっては一日に70人を診療しなければならないほど増大。資金不足は医薬品の確保にも深刻な影響を及ぼしています。
「妹の面倒は私が見ます」南スーダン難民のうち、半数以上を占めるのは子どもです。

エチオピアには、親を失ったり、親と離れ離れになった5万人以上の難民の子どもたちがいます。同国のキャンプで暮らす南スーダン難民の姉妹ナヤマクさん(写真)とニャコアさんは、そんな子どもたちのうちの2人です。姉のナヤマクさんは言います。「妹の面倒は私が見ます。私にはその責任があり、もし十分に食べ物がなければ先に食べさせます。幸せそうな妹を見るのが好きなのです」。
―私は大丈夫。手際よく家事をこなし、そう気丈に言うナヤマクさんも、まだ子どもで特別なケアが必要です。「私はいつか、いい仕事をしたい」。ナヤマクさんが思い描く、みずからの足で歩むその未来を手に入れるためにも、コロナ禍における医療支援をはじめUNHCRの支援を、今ここで途絶えさせるわけにはいきません。
6.地中海中部 アフリカ、北アフリカルート

新型コロナの感染拡大防止策として、国境閉鎖をはじめさまざまな対策が講じられる中、この地域の人の動きは著しく減っていないのが現状です。この地を目指して逃れてくる人々がいる一方で、ヨーロッパへの通過点として捉える人々もおり、アルジェリア、チュニジア、リビアなどから危険な海を渡ろうとする人は増加しています。

北アフリカと西アフリカの辺境の地で数年かけて築いた支援体制が脆弱化
過去2年以上にわたりUNHCRとパートナー団体が忍耐強く続けてきた、危険な経路を移動する人や、支援の届きにくい遠隔地にいる難民の方たちへの支援が、資金不足によって縮小される事態に。保護や食料、シェルターなどの支援の欠如のほか、より専門的な支援が必要なケースの連携メカニズムも脆弱になり、苦しい立場にある人々が置き去りにされかねない状況に追い込まれました。また、短期間の現金の給付支援もさらに規模を縮小。新型コロナの影響により、推定で最大75%の人々が収入源を絶たれる中、生活がままならなくなり、危険な海を渡りヨーロッパを目指す人もいます。
UNHCRのワクチンの接種への取り組み

UNHCRはコロナ禍が始まってから、医療体制をはじめ、一貫して受入国の枠組みの中で難民を新型コロナから守れるよう、働きかけ、政府と協働し活動を続けてきました。これは、ワクチンの接種においてももっとも効率的な方法であるため、UNHCRはその重要性を強調しています。
現在、難民が避難している国々でもワクチンの接種が進んでいます。しかし、これらの国の多くは医療体制が整っていない所が多く、ワクチンの調達でも苦戦を強いられています。ワクチンの輸送やインフラ、接種にかかわる人材など、多岐にわたる支援が必要です。UNHCRは各国で、難民も平等にワクチンを接種できるよう働きかけるとともに、保健省や医療パートナー、他国連機関とも連携し、ワクチン接種をサポートしていきます。
次のような分野でサポートの可能性があります。
優先接種者の特定
- それぞれの国の基準に沿った優先接種者の特定
サービスの提供
- 保健省との調整の中での、難民やそのほかの支援対象者へのワクチン接種
- 接種の同意や拒否に関する工程、接種拒否の人々を守る施策の実施
- ワクチン接種の予約システム等の構築
ロジスティックスと運搬
- 冷凍庫、クールボックス、運送業者、その他接種に必要な注射器や針などの調達と配送
- 大きな区域から小区域、キャンプや居住地へのワクチンの運搬
- 一時的なワクチン接種場所等の建設 など
コミュニティの動員、従事
- 支援対象者への情報提供、コミュニケーション素材の翻訳、印刷、配布
- ソーシャルメディアを活用した情報提供
- コミュニティの懸念点や認識のギャップ、不満やフィードバック等を吸い上げるメカニズムづくり
スタッフの支援
- 対面や非対面方式での能力強化活動(訓練素材の調達、移動手段や宿泊施設の提供)
モニタリング
- 接種券、接種証明などの発行
- 難民キャンプや居住地などにおける接種後のモニタリング
ワクチンの調達について

ワクチン接種は各国政府の主導のもとに行われており、難民のワクチン接種も受入国の枠組みの中で行われる予定で、すでに多くの国で接種が始まっています。
すべての国におけるワクチンへの迅速かつ公平なアクセスを目的としたグローバルな協働、取り組みであるCOVAX(コバックス)にUNHCRも参加しています。
一番苦しい境遇にある人々を守るための資金が不足

ここでお伝えした縮小や中止を余儀なくされた活動は、ごく一部であり、これらの難民危機では、今もさまざまな援助活動の継続が危ぶまれています。 しかし、2021年UNHCRの世界各地での援助活動に必要な資金は、必要額の23%しか集まっていません。コロナ禍で難民がさらなる苦境に追い込まれている中、これ以上、必要不可欠な支援を届けられなくなることは、何としてでも避けなければなりません。民間の皆様からのご支援は、報道されることが少なく、国際社会からも顧みられることの少ない、今回ご報告したような危機に柔軟に充てられる大変重要な支援であり、もっとも苦しい立場にある人々を守る大きな力になっています。
皆様のご支援は、今、もっとも必要性が高いと判断する
難民危機、援助活動に充当させていただきます。
必要不可欠な支援の削減を食い止めるために、今、ご支援をお願いいたします。

皆様のご支援でできること

1年で、10人が医療を受けることができます

1年で、50人が1週間分の水を受け取ることができます

1年で、7家族が現金の給付支援を受けることができます
※1ドル=106円換算
- 当協会へのご寄付は、税控除(税制優遇)の対象になります。お送りする領収証は確定申告にご利用いただけます。
- ご支援者の皆様にはメールニュース、活動報告等を送らせていただき、難民支援の「今」、そしてUNHCRの活動を報告させていただきます。
- Webでご寄付いただく際の皆様の個人情報はSSL暗号化通信により守られております。
*皆様のご支援は、UNHCRが最も必要性が高いと判断する援助活動に充当させていただきます。

