多くの避難民が命の危険に迫られ、身分証明書を持ちだす余裕も無い状態で緊急避難します。
しかし身分証明が無いままの避難生活は多くの困難とリスクを伴います。
UNHCRは「身分証明と登録」を極めて重要な援助活動と位置づけ、受入国政府や他の国連組織、パートナー団体と連携して取り組んでいます。

2030年までに全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する
UNHCR は「出生登録」に注力しています
「身分証明」の中でもとりわけ注力しているひとつが「出生登録」です。
出生登録により、子どもは法的な身分を証明され、その結果、権利を行使し公共サービスを利用することができるようになります。
難民は受入国に出生登録されていないことも多く、どれくらいの難民が出生登録されていないのか正確に把握するのは難しい状況です。
難民が適切な保護と援助を受けるために出生登録は不可欠です。UNHCRは受入国政府、国連の他組織、パートナー団体と連携しながら、世界各地の難民など支援対象者の出生登録に注力しています。
モザンビーク
UNHCRは身分証明書プロジェクトを実施して出生登録を促進しています

支援を受けられて笑顔を見せてくれた国内避難民のエスペランサさんと娘のローラちゃん。
ヨルダン
コロナ禍で中断していた出生登録が再開されました

再開後に無事出生登録を終えたシリア難民のアリくんと母のファヘミさん。
エチオピア
難民キャンプで出生登録を行っています

順番に出生登録を受ける南スーダン難民の母子。
スーダン
UNHCRは政府の出生登録を資金、運営、助言など多方面で支えています

出生証明書を受け取ったばかりの南スーダン難民クリスティーナさんとお子さん。
フィリピン
出生登録のおかげで公共サービスを利用できるようになりました

UNHCRは無国籍状態にあったサマ・バジャウ族の出生登録を推進しています。
コンゴ民主共和国
UNHCRは政府と連携して難民の出生登録を行っています

UNHCRの出生登録所にやってきたブルンジ難民の母子。
無国籍ゼロを目指す『I BELONGキャンペーン』
UNHCRが展開している『I BELONG キャンペーン』は2014年11月の開始以来、36万7000人以上の無国籍者が国籍を取得または確認されるなど、大きな成果を上げてきました。
出生登録の促進は無国籍者防止においても非常に重要な活動です。

【ナイジェリア】 UNHCRと政府が行っている出生登録プロジェクトにより国内避難民の赤ちゃんの出生登録が増えて喜ぶ助産師のリヤツさん。
日本人職員からメッセージ
モザンビーク / ペンバ・フィールド事務所 保護官 小田代佳子

この5年間、モザンビーク北部で反政府武装勢力や治安部隊などから一般市民への殺害・暴力行為が続き、2022年現在、78万人以上が避難を余儀なくされています。
その中で、武装勢力と無関係の国内避難民が身分を証明できずに、治安部隊に不当に逮捕されたり拘束され、ひどい拷問や暴力を受けるケースが頻発しました。
UNHCRは国内避難民を守るため2020年12月から「身分証明書プロジェクト」を開始しました。
これはモザンビークの国内避難民が政府が認める法的身分証明書や出生証明書を取得するのを支援するプロジェクトです。それにより避難民は様々な支援を受けられるようになり、危険から守られるようになります。
「身分証明書」は避難民が新しい人生を作り出す大事な1歩になる。その思いを胸に同僚と共に、ひとりでも多くの避難民に「身分証明書」や「出生証明書」を届けるべく活動しています。
避難民の「身分証明と登録」
難民登録の第一義的責任は受入国にあります。一方、UNHCRは受入国政府と共同、あるいは政府に代わって登録の計画や実施を行うことが可能です。またUNHCR独自に登録することも可能です。
UNHCRはSDGs 16.9※を達成するため受入国が行う市民登録、人口登録、関連のID管理システムに難民や庇護希望者など支援対象者を含めるよう働きかけています。
この目的のため、UNHCRは電子化、生体認証、受入国政府用に構成されたUNHCRのツールの利用など様々な方法で受入国のシステムの近代化を支援。受入国の対応能力を向上させ、受入国の各種登録に支援対象者を含めることを目指しています。
※SDGs(国連が掲げる持続可能な開発目標)16.9は、「2030年までに全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する」をターゲットに掲げています。
UNHCRの援助活動
1. 受入国の登録をサポート
原則として支援対象者は受入国の「市民登録・生命統計システム(CRVSシステム※1)」と「ID管理システム」に含められることにより、 ①公共サービスの対象となる ②難民の子どもが出生登録に含まれると無国籍を防止できるなど、明らかな保護上のメリットがあります。
UNHCRは支援対象者が受入国のシステムに含められるよう受入国に働きかけて、受入国の登録をサポートしています。
※1 CRVSは、Civil Registration and Vital Statistics の略称

【ポーランド】政府の社会保障番号を受けるため並ぶウクライナからの難民。
2. UNHCRでも登録
UNHCRによる記録や書類は必ずしも受入国の法的・行政的要件を満たすものとは言えません。そのため一般的にUNHCRの登録のみでは、受入国の市民登録や法的身分証明のシステムに含めることの代わりにはなりません
UNHCRの登録とID管理は、難民など支援対象者が受入国にきちんと登録されることや、デジタル化などを通じて、支援対象者を社会経済活動に含むことを促進します。(例:受入国政府の基礎資料となる場合など)また、支援を届ける際にもこのデータを活用しています。
国内避難民について:UNHCR は国内避難民に対しては難民・庇護希望者のような登録は行いません。しかし現金給付支援を含む各種の支援を届ける、あるいはモニタリングや追跡調査の目的で世帯ごと・個人ごとのデータを収集することがあります。また保護の目的でもデータ収集を行います。
「法的身分証明」で改善する避難民の生活
法的身分証明、つまり受入国の法的登録によって実現される身分証明を得ることで、避難民の生活は、以下のようにさまざまな面で改善されます。
- 出生・結婚など重要なライフイベントを証明できるようになる
- 搾取や虐待から保護されやすくなる
- 合法的な雇用機会を得られる
- 移動するための書類を得られる
- 医療や教育など公共サービスを利用できる
- 通信に必要な SIMカードの登録や銀行口座の開設ができる
モザンビーク
身分証明書のおかげで安心して仕事を探せます

UNHCRの移動式法律クリニックに身分証明書の相談に訪れる国内避難民たち。
ナナ・アリさん(22歳)はモザンビーク北部カーボデルガード州の海沿いの町で夫と2人の子どもと暮らしていましたが、ある夜いきなり武装勢力に襲われました。
一家は治安が良い地域に避難したいと思ったものの、全員分の交通費は賄えず、ナナさん1人が先に州都ペンバに避難することとなりました。
ナナさんは法的身分証明書を持っていませんでした。モザンビークで合法的に働くためには国が発行する法的身分証明書が必要です。さらに法的身分証明書がないと、移動もままならず、公共サービスも受けられず、不当な逮捕・拘束などのリスクにもさらされます。
ナナさんはUNHCRとモザンビーク・カトリック大学による共同法律プロジェクトのおかげで、法的身分証明書を取得することができました。
「これで仕事も探せるし、子ども達に教育も受けさせられます。家族を安全な場所に呼び寄せて一緒に暮らす希望が持てます。本当に嬉しいです」
ケニア
出生証明書が発行されて大学を受験できました

出生証明書によって大学受験を許可され、その後テストに無事合格したノシジさん(右)とお母さん(左)。
ショナ族は1960年代キリスト教宣教師としてローデシア(現ジンバブエ)からケニアにやってきました。1963年のケニア独立後、2年間の期限付きでケニア国籍を取得できましたが、ショナ族の多くが手続きを知らなかったり、利用できずに無国籍になってしまいました。
「ほかのショナ族の子ども達と同じように私の出生届は出されませんでした」と話すのは、ノシジ・ドゥベさん(20歳)。
ケニアでは出生届が無いと教育は受けられません。ノシジさんの母は妊婦診療カードで小学校や高校を懸命に説得して、ノシジさんを通わせました。
2019年、UNHCRとケニア人権委員会の継続的な働きかけにより、ケニア政府はショナ族の子どもに出生証明書を発行することとなりました。
ノシジさんは出生証明書を手にナイロビ大学を受験。試験で非常に良い成績を収めました。
ナイロビ大学の入学には「国民IDカード」が必要です。しかしUNHCRとケニア人権委員会の交渉により、大学は例外的にノシジさんの出生証明書を使っての入学を許可。ノシジさんはケニアで暮らすショナ族の女性として初めて、大学進学を果たしました。
「ショナの女の子達に、自分は何にでもなれるのだと知ってほしい」とノシジさんは話しています。
※ UNHCRは無国籍者の支援も行っています

あなたのご支援は 例えば ――
モザンビークの国内避難民の赤ちゃんの出生証明書
30人分=36,000円
50人分=60,000円
100人分=120,000円
※1米ドル=112円換算