難民の90%、国内避難民の70%は、アフガニスタンやミャンマー、南スーダン、シリアなど、気候変動の最前線にある地域の出身であり、紛争や暴力だけでなく、気候変動の影響も要因となって世界各地で避難を強いられる人の数が増加しています。そして避難した人々の大多数を受け入れているのもまた、気候危機に対して脆弱な開発途上国です。気候変動は何不自由ない私たち先進国の生活と不可分の関係にありますが、その影響はもっとも弱い立場におかれている人々がひとえに被っています。
急速に進行する気候変動の影響について語る難民・国内避難民の声をお届けいたします
“1950年代からここに住んでいるが、今までこんなことはなかった”
“このような嵐やハリケーンを経験したことは、これまで一度もありません”
これは、気候変動の影響によって避難を強いられた人たちや彼らを受け入れるコミュニティの人々の証言です。2019年、洪水や干ばつをはじめとする気候関連の自然災害で避難を強いられた人の数は2390万人。紛争や迫害だけでなく、気候変動による影響も避難の主な要因となり、難民や国内避難民は気候危機の最前線でその深刻な影響を受けています。
“子どもたちは皆、飢えています”
アフガニスタン国内、苛烈な戦闘のあった地域に帰還したモハマドさん。経済の崩壊と干ばつの影響で生活の再建は遠く、食料難で家族に食べさせることさえ難しい状況に直面している数万人のうちの1人

モハマドさんの子どもたち。戦闘で破壊されつくした住まいの様子からも、過酷な生活が伺える
食料危機の悪化 アフガニスタン
長期にわたる紛争で多くの難民、国内避難民を生み出し、依然として不安定な状況が続くアフガニスタンでは、気候変動の影響で食料危機がさらに悪化。同国は、世界でもっとも災害の多い国の一つであり、過去30年で34のほぼすべての州が災害に見舞われ、度重なる干ばつや洪水などによって、食料と水不足に対する脆弱性が高まっています。高いレベルの食料不安に直面している人は人口の1/3にのぼり、飢餓が現実になっています。
“水位が急速に上がり、家へ戻ることもできなくなっていました”
“こんな洪水は見たことがありません”
数時間のうちに胸元まで水につかった洪水被害について語るメヘルさん(60歳)。
バングラデシュでは、災害の威力が増すだけでなく頻度も高くなっている
威力を増す自然災害の増加バングラデシュ・コックスバザール
バングラデシュでは、近年気候変動によりサイクロンや洪水の威力が増し、多くの人々の命を脅かしています。モンスーンの季節、約90万人のロヒンギャ難民が暮らす南部の居住地では、集中豪雨によって洪水や地滑りが発生。シェルターが倒壊し、難民が再び避難を強いられるリスクがあるほか、トイレをはじめ水と衛生関連の施設が破壊され、コレラなどの水を介して起きる感染症が流行する恐れもあります。


“雨は、ほとんど降りません。私には、気候変動の原因がわからないのです”
減少する水資源をめぐり衝突が発生し、カメルーン北部からチャドへ逃れてきたアシャムさん
減りゆく資源をめぐる衝突 サヘル地域・カメルーン北部

水資源の減少に直面するなかで、漁民・農民が残っている川の水を溜めて魚の養殖や農作物の栽培を行っている溝。この溝に遊牧民の牛が落ちて溺れ、コミュニティ間のさらなる対立に発展
気候変動による深刻な干ばつや水の減少は、資源をめぐる衝突を悪化させ、昔ながらの生活を送る人々から生計の手段を奪い、命を脅かしています。サヘル地域では、国連の推定によると世界平均の1.5倍の速度で気温が上昇し、農地の約80%が荒廃しています。過去60年でチャド湖の水面は95%も減少し、カメルーン北部では減りゆく水資源をめぐって遊牧民と漁民・農民の間で衝突が発生。争いはエスカレートして多くの村が焼き討ちにあい、何万人もの人々が隣国チャドへ逃れました。
気候危機の中で生まれ、生きていく
子どもたちと気候変動

母親の避難直後に隣国で生まれた3つ子
急速に悪化していく気候危機の中で生まれ、気候変動とともに生きていかざるを得ない子どもたち。自然災害の数は、近年増加傾向にあり、気候変動をみずから引き起こしていない世代が、頻発する災害の深刻な影響を将来的に受けることが予測されています。
また、災害で教育のシステムが破壊されたり、貧困から教育へのアクセスを失ったりするなかで、少女への影響はより深刻で、子どもたちは児童婚や児童労働に直面しやすくなります。
“100メートルおきに休まなければなりませんでした”
カメルーン北部の水資源をめぐる衝突によって、妊娠8か月でチャドまで徒歩で逃れてきたアミーナさん

気候変動への取り組みは、子どもたちの今この時、そして未来を守ることにつながります


新型コロナ関連で見られるように、気候変動に対する取り組みにおいても同じレベルの意欲と連帯が必要です
UNHCR 気候変動特別アドバイザー アンドリュー・ハーパー

― 気候変動は、避難を強いられている人々の命にどのような影響を与えているのでしょうか。
科学は明らかです。砂漠化が進み、海面が上昇しているのを私たちは目の当たりにしています。このことは、人々が生き残るうえでより多くの課題を突き付けています。人々は移動を余儀なくされ、各地で緊張が高まり紛争も増えるでしょう。そして残念なことに、避難を強いられる人が増えることが予想されます。世界の難民の84%は、開発途上国にいます。そして、これらの国々は気候変動の影響をもっとも受ける可能性が高いのです。深刻な事態が起き人々が移動するのを待つか、あるいは気候変動にもっと積極的に対応していくのか。そのどちらかなのです。
― “気候難民”とは何でしょうか。
国際法のもとでは、気候難民という定義はありませんが、この言葉は苦しい立場に追い込まれた人々とその切迫感、避難を余儀なくされた人々のために行動を起こすことの必要性を捉えています。気候が要因となって避難している人の数を正確に特定することはできません。気候だけが、避難の理由ではないからです。しかし気候変動は、人々の根本的な脆弱性をさらに高めます。資源をめぐる競争が増え、コミュニティ間の緊張が高まります。そして、世界中の人々の生活を脅かします。こうした事態はすでに多くの場所で見られ、アフリカのサヘル地域では、減りゆく水や土地をめぐって農民と遊牧民の間で衝突が発生しており、中米の乾燥回廊と呼ばれる地域でも同じようなことが起きています。

― 新型コロナウイルスは、気候変動によって苦しい立場に追い込まれている人々にどのような影響を与え、また私たちは新型コロナ対応から何を学ぶことができるのでしょうか。
新型コロナウイルスは、避難を強いられた人々の脆弱性をさらに高めています。彼らの大多数を受け入れている地域は、多くの場合、保健システムがとても脆弱であり、そのような状況下で人々はさらに追い詰められています。そのうえ、難民や受け入れコミュニティの人々は、社会経済的に非常に不安定な状況におかれていることが多いのです。社会的セーフティネットも貧弱で、収入が不定期なこともあります。新型コロナ関連で見られるように、私たちは気候変動に対する取り組みにおいても同じレベルの意欲と連帯が必要です。
動画:干ばつにさらされる“アフリカの角”
“アフリカの角”と呼ばれるアフリカ東部ソマリア、エチオピア等では2019年から降水量が激減し、1840万人が厳しい干ばつ、そして飢餓にさらされています。UNHCRはパートナー団体等と連携し、この気候危機から避難を強いられる難民・国内避難民を支援しています。

UNHCRの気候関連の緊急援助活動

モザンビーク:被災した家族が受け取ったソーラーランプや毛布、シェルターなどの救援物資
2019年 モザンビーク、ジンバブエ、マラウイ
サイクロン・ イダイが同地を襲った際、UNHCRは難民の家族をより安全な避難所に移転させ、テント、ビニールシート、衛生用品や清潔な水を提供。
2020年 中米、メキシコ南部
過去20年間で最悪の気象災害のひとつハリケーン・イータにより約300万人が被災した際、緊急対応チームを派遣。
2021年 バングラデシュ
例年同国南部のロヒンギャ難民に対し、モンスーンの暴風雨、洪水、地滑りの被害を軽減するための支援を実施。
UNHCRの取り組み①|ニジェール
生計を創出しコミュニティを活性化 環境に優しいレンガ製造プロジェクト
治安情勢の悪化と気候変動に直面するサヘル地域。多くのマリ難民が身を寄せるニジェールでは、これまでよりもはるかに少ない燃料でレンガ製造を行い、UNHCRが支援する人々の住まいづくりに使用。難民と受け入れコミュニティの人々がレンガ製造を通して収入を得ることで、コミュニティの活性化にもつながっています。


UNHCRの取り組み②|イエメン
安全性と暮らしの質も向上 環境に優しい調理用コンロ製造プロジェクト
イエメンでは、多くの国内避難民が自作のストーブを調理と防寒目的で使用していましたが、火事のリスクが高いうえ、月4000円近い燃料代の捻出が難しく、二酸化炭素の排出量の多さも問題でした。こうした背景から、UNHCRは安全に使用でき環境に優しい調理コンロの製造プロジェクトを開始しました。粘土ベースのコンロはリーズナブルで耐久性、エネルギー効率がともに高く、灰の排出も減り、短時間で安全に調理できるのが特徴。環境への負荷が低いだけでなく、生活の質の向上にもつながりました。


今ふたたび、モンスーンのリスクが迫っています

避難直後にモンスーンの被害に遭ったアズマちゃんの証言
ミャンマーからバングラデシュに逃れてきたのは、彼女が7歳の時。
家族とともに川を渡り、森を歩き続けた道のりをこう振り返ります。
“ここまで来るのはとても大変で、着くまでに9日間かかりました”
バングラデシュに到着し、安心したのもつかの間。すぐに強風や洪水、地滑りが多発するモンスーンの季節が始まったといいます。
“強い風で屋根が吹き飛ばされ、私たちはシェルターを直さなければいけませんでした。とても怖かったです”
今、92万人のロヒンギャ難民が身を寄せるバングラデシュは、ふたたびモンスーンの時期を迎えています。気候変動の影響で威力を増す自然災害から多くの命を守るため、どうぞ今、ご支援をお願いいたします。
いま、行動を起こし気候変動を食い止める。
UNHCRの気候危機への取り組みと、 避難を強いられた人々を守る活動にご支援をお願いいたします。
「危険な状況から逃れるために、すべてを捨てなければならず、逃れた先で絶望的な状況におかれている人々。そのうえ、地球温暖化によって引き起こされた事態の矢面に立たされる人々。想像してみてください。 それは、耐えがたい二重の苦しみです。」(UNHCRブルキナファソ アソシエイト・フィールド・オフィサー ティエリー・ジンタ・ティアヌン)。
どうぞ今、気候変動による避難の要因を減らし、すでに影響を受けている難民や国内避難民、受け入れコミュニティの人々を守るUNHCRの活動をともに支えていただけますよう、心よりお願い申し上げます。
皆様のご支援でできること
※1ドル=112円換算

1年で、ウォータータンクの飲み水(1か月分) 20家族分

1年で、エネルギー効率に優れ、安全に短時間で料理ができる調理コンロ 14家族分

1年で、難民が避難先で土地を耕すのに必要な道具や種 6家族分
- 当協会へのご寄付は、税控除(税制優遇)の対象になります。お送りする領収証は確定申告にご利用いただけます。
- ご支援者の皆様にはメールニュース、活動報告等を送らせていただき、難民支援の「今」、そしてUNHCRの活動を報告させていただきます。
- Webでご寄付いただく際の皆様の個人情報はSSL暗号化通信により守られております。
*皆様のご支援は、UNHCRが最も必要性が高いと判断する援助活動に充当させていただきます。

