UNHCRの難民支援 現金の給付支援

現金の給付支援は、なぜこれほどまでに広がりをみせるのか。 その理由を探ってみると、紛争や迫害から逃れた直後から長期にわたる避難生活、母国への帰還まで、困難に向き合う人々の暮らしに寄り添う支援の形が見えてきました。

UNHCRは2019年、100か国以上で現金給付支援を実施した<

現金の給付支援とは

極度に困窮していたり、苦しい立場におかれている難民を守る支援で、保護や医療など、さまざまな目的で実施されています。最低限のセーフティネットであり、難民自身がそれぞれのニーズに合わせて給付された現金を使い、生きるために必要不可欠なもの(食料や医療など)を即座に手にすることができるのが特徴です(緊急時に最低限のニーズを満たす金額の支給であり、その国の一般的な生活基準を満たすものではありません)。

難民を守る、UNHCRの現金給付支援

1. すぐそばに迫る暴力から身を守る支援

レバノンにおける保護のための現金給付の主な使い道 1.居住費 2.食料 3.医療

難民となり、他国で避難生活を送るなかで、もしもパートナーや身近にいる人から暴力を受けていたら、私たちならどうするでしょうか。合法的な労働はごくわずかな分野でしか許されず、ひっ迫していく一方の暮らしのなかで、近くに頼れる親や親せき、知り合いもいない。自分の国にいれば誰もが考える、「そこから逃れる」という選択肢を、自力で選ぶことができる人は、どのくらいいるでしょうか。避難先で、なお暴力にさらされる人たちが、その身を守るために緊急に必要としている現金の給付支援があります。

難民支援の現場から:レバノンに逃れたシリア難民のモーニラ

保護を目的とした現金給付によってもたらされる安全

レバノンに暮らす難民親子
レバノンは地域によって居住費などが大きく異なり、給付額にも影響する

夫の暴力は、シリアからレバノンに避難してから始まった―。シリア難民のモーニラは、そう回想します。法的支援を得て昨年離婚が成立し、4人の娘と暮らす今の生活の支えとなっているのは、保護のための現金の給付支援(Cash for Protection)です。「厳しい状況下で、支援に助けられています。給付金の主な使い道は家賃や食料、薬です。支援を受けて、前よりも安全だと感じています」。彼女の娘のうち、2人が手術や治療を必要とする病を患っていることからも、モーニラにとって現金給付は、なくてはならない支援です。
特定分野における保護を目的とした現金の給付支援は、UNHCRの現金給付の多くを占めます。なかでも、性と性差にもとづく暴力(SGBV)の被害者、暴力や搾取を受ける恐れのある人々を守るための現金給付は、レバノンをはじめ、さまざまな国で実施されています。「給付支援があったから、搾取から逃れることができました」。モーニラがそう言うように、レバノンでは、先の見えない避難生活のなかで鬱屈した感情がもたらす家庭内暴力や、雇用主や大家などによる搾取から、支援を受けて逃れることができたという声が多数寄せられています。

2. 現金給付で住まいをつくる計り知れないそのメリット

アイシャ
ブルンジからコンゴ民主共和国へ逃れ、自分たちで建てた家で暮らすアイシャ(中央)

「トイレのない家じゃ、とてもじゃないけど暮らせない」と言うブルンジ難民のアイシャの言葉に、頷かない人はいないはず。UNHCRから住まいのための現金給付(Cash for Shelter)を受け、トイレのある住居を建てた彼女。長期化する避難生活の基盤となる住まいを、みずからつくるプロジェクトは、難民の方々の暮らしや意識だけでなく、地域社会や支援の可能性にも影響をもたらしています。

難民支援の現場から:ケニア・カロベイエイ難民居住地

難民が中心になって進める家づくり

アンネ
コンゴ民主共和国から逃れたアンネ

ケニアのカロベイエイ難民居住地における住まいのための現金給付は2018年にスタートし、これまでに1647戸が建てられています。それぞれの世帯がトレーニングを受講後、UNHCRの専門家が策定した建設規定に沿って、長期にわたって暮らす住居を自身で建設。トレーニングでは、建設工程や建材の知識、建設費を抑えるための素材の共同発注の仕方、デビットカードでの支払い方法、石工との契約など、プロジェクトで必要になる実用的な知識が幅広く提供されました。「以前は配給された食料や自分の持ち物がなくなるのでは、という不安をいつも抱えていました。新しい家が本当にうれしい」と語るのはコンゴ民主共和国から逃れているアンネ。


難民みずから住居を立てたケニア・カロベイエイ難民居住地の例 各世帯のトレーニング→銀行口座の開設→送金開始→建材の大量注文→石工の採用→UNHCRのエンジニア→最終認定→事後モニタリング

これらのプロジェクトの特筆すべき点は、難民と地元コミュニティの双方にメリットがあること。住居の建設は、地元や難民コミュニティから必要な人材を雇い、技術面ではUNHCRの専門家の協力のもとで行われました。「現金給付は、生活するコミュニティ全体を活性化します。住まいづくりを通して地元で消費されるお金は、地域に還元され、地元コミュニティとの関係性を改善します」とUNHCRの現金給付の担当官モファット・カマウは話します。

3. 避難先の子どもたちの今と未来を守る支援

学校に通っていない学齢期の難民の子どもは48%

紛争で学校が破壊されること、避難先で教育の機会を得られないこと。それは、子どもたちから未来を奪うことを意味します。長期にわたる避難生活で、多くの難民の家族が貧困に陥るなか、UNHCRは子どもたちが通学するうえでのバリアをできる限りなくせるよう、教育を目的とした現金の給付支援をさまざまな形で実施しています。 リサーチによると、教育を目的とした現金の給付支援を行うことで、難民の子どもたちの通学率や成績等にはっきりとした成果が出ることが明らかになっています。一方で、援助活動資金の不足が続けば、現金の給付支援を継続することは難しくなります。難民の子どもたちが教育を受け続けることができるかどうか。子どもたちの未来の鍵を握っているのは、世界からの支援なのです。

難民支援の現場から:ヨルダンで避難生活を送るシリア難民のナァマット(11歳)

難民の子どもたちが教育を受け続けること

ナァマット
通学バスに乗り込み学校へ。ナァマットが子どもに戻る時間

もしも現金の給付を受けていなければ、ナァマットは、学校に通えていないかもしれません。難民の子どもたちに公教育が無料で提供されているヨルダンですが、学校までの交通費がないために教育の機会を失う子どもは、決して少なくありません。ナァマットの家族は、現金の給付支援を学校へのバス代に充てて、彼女を通学させています。父親は病気で働くことができず、母親は清掃の仕事で家を空けていることが多いため、家では幼い兄弟の世話や家事で、忙しく過ごしているナァマット。 「子ども時代は部分的に失われています。でも学校に行くこと、未来を築くことで、失われていない部分もあると思うのです」。11歳の少女のこの言葉は、彼女が普通よりもずっと早く、大人にならざるをえない状況にいること、教育を受けることと学校という場所が、彼女にとっていかに大切なものであるかを物語っています。

4. 避難先で、帰還した故郷で。 自分の足で立ち、生きる人を支える

シディ
避難先のブルキナファソで、UNHCRの職業訓練を受け仕立てのスキルを身に付けたシディ(右から2番目)

「人生に必要なものは、 勇気と想像力。 それと、ほんの少しのお金」とは、チャップリンの言葉。避難先で職を得て働きたい、母国に戻って生活を再建したいと願う難民の人生もしかり。逆境のなかでふたたび未来を思い描き、踏み出す勇気を持っている人々。その背中を後押しするのが、自立のための現金の給付支援です。
避難先や帰還した故郷で奮闘する人々は、どのような思いでスキルを身に付け、自立への一歩を踏み出しているのでしょう。

難民支援の現場から:母国ソマリアから一人逃れた少年ヤヒア

自立と受け入れコミュニティへの貢献を目指して

ヤヒア
17歳の時にソマリアから一人逃れたヤヒア

食べることは、とても大切なことです。料理人になると決めたのは、それが理由です。故郷では、多くの人が食べ物に困り、子どもたちは栄養不良でした。資格を取得した今、ここで自分のキャリアをスタートし、将来は独立して成功したい。自分の家族、そして貧しい人々を助けたい」。17歳の時に、武装勢力から逃れるために母国ソマリアを一人後にした少年ヤヒアは、現在19歳。避難先のウクライナで、自立のための現金給付を受け資格を取得し、首都キエフで料理人としての道を歩もうとしています。
UNHCRシニア保護アシスタントのマリアンナ・キッパは、ヤヒアの前向きな姿勢が印象に残っていると言います。「ヤヒアと初めて会ったのは、キエフにある保護者のいない子どもたちの心理・社会的リハビリテーションセンターでした。彼は、いつだって前向きです。たとえ、どんなに大変な状況でも。そして強い意志で、自立した一人の人間、地域に変化をもたらす主体的な存在としての第一歩を踏み出したのです」。

5. コロナ禍における現金の給付支援

シディ

町はロックダウン その時、避難生活を送る人々は
新型コロナウイルスの感染拡大による世界各地でのロックダウンは、難民の方々の暮らしにも大きな影響を及ぼしています。避難先での季節労働や不定期の仕事など、わずかに開かれた労働環境のなかで、家族を守るために働き、やっと保っていた暮らしが崩れつつあります。コロナ禍で苦しい状況にある人々を守るために、今UNHCRは、世界各地で緊急の現金の給付支援を実施しています。

ヨルダン

新型コロナウイルスの影響で収入が途絶え、初めて緊急の現金給付を受けたユーセフ

ユーセフ一家

「7年間、自力で家族を養ってきました。自分でも仕事を見つけ、地元には助けてくれるチャリティ団体もありますから。でもこのウイルスがすべてに影響し、この4か月は収入がありません。私たちを助けてくれていたヨルダンの人でさえ苦労しているのですから。タイミングよく緊急の現金給付を受けられて、本当によかったです。もしもこの支援がなければ、私たちは立ち退きにあい、路上で暮らさなければならなかったでしょう」。

エクアドル

避難先でストリートフードを売って生計を立てていたダヤナ

ダヤナ

母国ベネズエラでは労働法の修士号を取得し、法律家として働いていたダヤナ。ストリートフードを売って生計を立てていたが、コロナの影響で今は働くことができない。「収入のない今、この食料は子どもに食べさせるために不可欠なものです」。エクアドルでは、コロナ禍で現金給付同様、物資の支援が行われています。

本来守ってくれるはずの国という後ろ盾を失った難民が難しい状況にある今、UNHCRによる緊急の現金給付が、人々の日々の命と暮らしを支えています。現金の給付支援から見えてくるのは、難民が抱える困難です。しかし、その困難と向き合い克服することができるのは、難民の方々の強い気持ちとともに、連綿と続く世界中の皆様からのご支援があるからです。
紛争や迫害から逃れ、それでも厳しい生活を強いられている難民に温かいご支援をいただけますよう、心よりお願い申し上げます。

【動画】2人の娘と故郷を逃れたシリア難民のハナ

UNHCR(国連高等難民弁務官事務所)は、 難民の命を守り、保護する機関です。
緒方貞子さんとルワンダ難民
ルワンダ難民を訪問する緒方元高等弁務官
UNHCRは、シリア・アフガニスタン・ウクライナなど世界中で家を追われた難民・国内避難民を支援・保護し、水や食料、毛布などの物資の配布や、難民キャンプなど避難場所の提供、保護者を失った子どもの心のケアなど、最前線で援助活動に尽力しています。1991年から10年間、緒方貞子さんが日本人として初めてUNHCRのトップである国連難民高等弁務官を務めました。 
※紛争や迫害などのため命の危険があり、国外へ逃れた人を「難民」、国内で避難している人を「国内避難民」と呼びます。

難民の暮らしを支える力に ― 皆様のご支援でできること

毎月2,500円のご寄付

チャドの高校、中学校で難民の子ども学校に通うための現金の給付支援4人分

毎月5,000円のご寄付

新型コロナウイルス感染症(COIVD-19)対策の衛生用品等を購入するための現金給付21人分

毎月10,000円のご寄付

過酷な状況下おかれた女性や子どもなど、緊急に保護が必要な人々への現金給付6か月分

※1ドル=106円換算

  • 当協会へのご寄付は、寄付金控除(税制上の優遇措置)になります。お送りする領収証は確定申告にご利用いただけます。
  • ご支援者の皆様にはメールニュース、活動報告等を送らせていただき、難民支援の「今」、そしてUNHCRの活動を報告させていただきます。
  • Webでご寄付いただく際の皆様の個人情報はSSL暗号化通信により守られております

*皆様のご支援は、UNHCRが最も必要性が高いと判断する援助活動に充当させていただきます。

皆様からのご寄付によって 多くの命が助かります。
水・食糧の供給から住居、医療、教育まで、長期的に難民を 支えるには、毎月のご支援が欠かせません。ぜひ、ご検討ください。
水・食糧の供給から住居、医療、教育まで、長期的に難民を 支えるには、毎月のご支援が欠かせません。ぜひ、ご検討ください。
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