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長期化する避難生活の中、ヨーロッパの忘れられた難民たちの苦悩は続く
ミリョ・ミリチ(Miljo Miljic)さん一家は、セルビアの村リパニ(Ripanj)にある質素なアパートで暮らしています。家族の写真や本、家財道具など、ボスニア・ヘルツェゴビナの故郷トゥズラ(Tuzla)での生活を思わせる物は何もありません。
「物を持ち出す時間などありませんでした。すぐに逃げ出さなくてはならないという咄嗟の状況で浮かんだのは、子どもと自分の命を守ることだけでした。写真や証明書類、衣服のことなど考えませんでした」と、ミリョさんは言います。
ミリョさんとその妻ミリツァ(Milica)さん、そして息子のミルティン(Milutin)さんと娘のスタニスラヴァ(Stanislava)さんは、1992年にトゥズラから逃げることを余儀なくされ難民となりました。彼らの過去や身分を証明するものは、難民登録証だけです。当時赤ん坊だった子どもたちを抱えて、何も持たずに逃げ出しました。
1990年代の紛争で、ボスニア・ヘルツェゴビナとクロアチアから50万人以上の市民がセルビアへ避難しました。現在20万人を超える元難民たちがセルビア国籍を取得し、地域への融合はかなりの成功を収めたと言えます。しかし、長期化しているヨーロッパ最大の難民状況で、9万6000人あまりは未だに難民として残されています。多くの人々が絶望的な状態の中、将来への希望も見えぬまま暮らしています。
一家がセルビアに到着すると、350人の難民たちとともに、首都ベオグラードのすぐ南にあるスプリャ・ステナ収容保護施設(Suplja Stena Collective Centre)での避難生活が始まりました。27人の難民たちと共に1つの部屋で寝起きし、風呂場、トイレ、キッチンを共同で使用するという、事実上の難民キャンプでした。
これが人生で最悪の時期だったと妻のミリツァさんは振り返ります。「収容保護施設に到着した時はひどすぎて死にたいくらいだと思いましたが、それでも2人の子どもの世話をしなければなりませんでした。」一家に専用の部屋が与えられてから、生活はましになりました。
一時的な場所でしかないとはわかっていたものの、2003年に保護施設が売却・民営化され、自活せざるを得なくなったことは、ミリチ一家にとっては衝撃でした。
一家は近くの町リパニで2部屋とバスルームを借り暮らしていますが、生活は厳しい状態が続いています。「その日暮らしの生活です。次にいつ仕事が見つかるかもわかりません。2人の子どもを育て、学校を卒業させるのは大変です」と、ミリョさんは言います。夏には別荘や庭の手入れの仕事が見つかるので生活は多少楽になりますが、冬の暮らしは厳しくなります。
トゥズラへ戻る事も考えましたが、住んでいた家は壊されて略奪に遭い、安全とは言えませんでした。土地を売ったとしても資金としては不十分な上、子どもたちはセルビアでの生活に馴染んでおり、本国への帰還も第三国定住も考えられません。
そうなると、残る道は避難地域への融合ですが、セルビア国籍を取得したとしても雇用や住居が保証される訳でもなく、厳しい財政状況にあるセルビア政府の社会福祉も期待できません。そういった理由から、基本的な医療ケアとUNHCRやそのパートナー機関からの人道支援を臨時で受けられる難民登録証を固持しています。
バルカンの難民問題の根源は現在ではほぼ存在せず、一家が危険な状況にあるとは見なされなくなり、いつかは難民としての権利も無効になるとわかっていますが、これにより、定年間近となった時に雇用問題や生活費や住居費、医療費などの問題が解決されるということではありません。
困難な状況にも関わらず、少なくとも子どもたちにはなんとかまともな教育を受けさせていることがミリチ夫妻の将来への投資となっています。ミルティンさんはまだ高校生ですが、スタニスラヴァさんはセルビアの市民権を申請中で、看護学校を卒業後ベオグラードの病院でインターンとして働いています。
セルビアでは失業率が高く、経済の見通しは厳しいですが、両親はスタニスラヴァさんがまともな仕事を見つけることに希望を託しています。「子どもたちが卒業し仕事を見つけて、今よりも楽な暮らしを送れることだけが望みです。自分たちのことはもう考えていません」とミリョさんは言います。
UNHCRは可能な限りの援助をしていますが、資金にも限界がある上、現在の不況で改善の見込みは多くありません。「すべての難民を支援できるとは思えませんが、政府と国際社会は少なくとも最も弱い立場の者たちを支援しなくては」とUNHCRのレナルト・コツァライネン(Lennart Kotsalainen)セルビア事務所代表は言います。
UNHCRは、5年から数十年にも渡り世界各国で避難生活を続ける、600万人にも及ぶ、長期化する難民問題の解決を新たに重視し始めました。アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官は2008年12月、政治的意思が長期的な解決を見つける主な前提条件であると述べ、長期化している難民状況はそれぞれが異なり、帰還、避難地域への融合、第三国定住を含め様々な手段を組み合わせながら、包括的な解決が必要であると加えました。ミリチ一家のようなセルビア難民にとって、本当の意味での解決はまだ遠いようです。
原文 : Protracted Refugee Situation: The continuing struggle of Europe’s forgotten refugees
ソース : UNHCR News Stories
日付 : 2009年1月12日
日本語訳 : 石井里佳(国連UNHCR協会ボランティア)
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